ISO 9001:2008

「6.4 作業環境」

デパート向けの弁当を作っている会社を、夜に訪問しました。
現場の作業者は、昼間は女性がほとんどですが、夜勤になると、男性の中高年契約社員と学生アルバイトが主になります。
「他の会社を定年退職してから、ここで働いている中高年の方々は、大変まじめに働くのですが、学生アルバイトはいいかげんな人が多いですね」と、みんなから「主任」と呼ばれている若い正社員が教えてくれました。
例えば、この間アルバイトとして入ってきた大学生3人について。
「『爪を短く切れ』と言っても切ってこないんですよ。『なんで切ってこない?』って言ったら、『だって、ギター部ですから』だって」
夜勤作業者のほとんどは、ベルトコンベヤーに乗った空の弁当箱に、ご飯やおかずを順番に詰めていく作業をしているのですが、ギター部の3人組は態度が悪いので、このラインからはずしたそうです。
ライン全体の流れに悪影響を及ぼすと、主任が判断したからです。
この3人組に与えた別の仕事は、おにぎりの製造でした。

おにぎり製造機という機械があって、一方から炊きあげたご飯を入れ、別の方からご飯にまぜる具を入れたり、おにぎりに直接梅肉などを注入したりすると、出口から完成したおにぎりが出てきます。
機械から出てきたおにぎりは、大型トレイに並べます。
この作業を3人組にさせたのですが、問題が起こりました。

この作業は、コンベヤーを使ったラインとは別の、おにぎり製造専用室で行われるのですが、監督官である主任は、通常はラインを監督し、おにぎり製造専用室には時々しか見に行かないのです。
すると、主任が見にこない間に、3人組がおにぎりを盗み食いしているという情報が中高年組から入ってきました。

そこで、「じゃあ、監視カメラを付けよう」と主任は思ったそうです。
ですが、稟議を出すのはじゃまくさいし、稟議が通ったころには3人組はもう辞めているかもしれません。
そこで主任は、家にある昔の大きなビデオカメラをおにぎり製造専用室に持ち込んで、「ビデオで監視してるからな」と3人組には告げておくというのはどうだろう、と考えました。

「実際に、やったんですか?」とお聞きすると、
「いや、ちょっとISO的にまずい感じがしたので、結局はやらなかったですね」
「どこがまずいと?」
「いや、だって、会社に内緒でビデオ撮って、記録に残すわけでしょう。審査員がそのビデオ見つけて、『なんだ、このビデオは、えっ? 事務局君?』『えっ? そんなビデオがあるなんて知りませんでした』なんてことになると、まずいじゃないですか」

このようなビデオ設備は製品品質に影響を及ぼす「作業環境」に該当すると思います。ただ、この弁当会社の場合は、ビデオはオプション程度ですが、IT産業の場合は必須になってきているみたいです。ISO 20000の取材でソフトバンクを訪問した時、汐留本社のオフィスにいる情報セキュリティ担当者は、「うちのオフィス内のビデオには、死角が一切ありません」ときっぱり言っておられました。

さて、休日のせいか、前置きが随分長くなってしまいました。
ISO 9001:2008の話ですが、「6.4 作業環境」で変更になった部分は、新たに「注記」が加わったことです。
ISOユーザーから、「作業環境」とは具体的にどのような範囲まで含まれるのか明確にしてほしい、という声が寄せられたので、それに応えたものです。
ISOの会議では議論の段階で「作業環境という用語は、クリーンルーム、(静電気)帯電防止策及び衛生管理のような製品要求事項への適合を達成す
るために必要な状態と関連している」といった「注記」案も出ましたが、これではあまりに具体的過ぎるとしてボツになり、結局、最終的には下記のような表現に落ち
着きました。

(ISO/FDIS 9001:2008)
NOTE  The term “work environment” relates to conditions under which
work is performed including physical, environmental and other factors
(such as noise, temperature, humidity, lighting, or weather).
(JIS DRAFT 9001:2008)
注記 作業環境という用語は、(騒音、気温、湿度、照明、天候などのような)物理的、環境的及びその他の要因を含む、作業が行われる状態と関連している。

関連記事

  1. 「1.1 一般」
  2. 「7.3.3 設計・開発からのアウトプット」
  3. 「0.4 他のマネジメントシステムとの両立性」
  4. 「7.5.2 製造及びサービス提供に関するプロセスの妥当性確認」…
  5. 「1.2 適用」「2. 引用規格」「3. 用語及び定義」
  6. 「8.2.2 内部監査」
  7. 「7.3.2 設計・開発へのインプット」
  8. 「8.2.3 プロセスの監視及び測定」

コメント

  • トラックバックは利用できません。

  • コメント (1)

    • 家元
    • 2008年 9月 25日

    これは面白い事例ですね。
    「製品要求事項への適合を達成するために必要な作業環境」ですから、クリーンルームなんかはすっと落ちるんですが、そのほかっていうとあまりピンとこなかったんです。
    変なおにぎりを作ら(せ)ないために、監視されている状態に置く、確かに9001の要求事項と一致しているなぁ。
    また、幅を広げさせていただきました。・・・感謝。

ピックアップ記事

JARIのEMS審査における「技術専門性」とは?

日本自動車研究所認証センター(JARI-RB)は1996年に設立、自動車業界の差し迫った環境ニーズに…

為定明雄氏の特別講演 速報

10月23日に開催された「日科技連 ISO推進者会議 50回記念大会」の特別講演「消費の変化と顧客づ…

日吉さんのAPQP問題、解いてみ?

日吉信晴さん(LRQAジャパン・TS16949審査員・講師)による連載記事「ISO/TS 16949…

低学年の野球練習で

ねえねえ、せんせー・・・あっ、ちがった、かんとくぅー…

周囲の人のおせっかいがヒューマンエラーを防ぐ

ヒューマンエラーの原因究明を行う際、「深掘り」が王道と思われがちだが、人への責任追及をせず、「こんな…

アーカイブ

ツール

規格

PAGE TOP