ISO 9001:2015

次期ISO 9001規格の最新動向 その3

引き続き、ISO/TC176国内対応委員会副委員長・棟近雅彦氏による講演「次期ISO 9001規格について」を紹介します。下の写真は、同講演が行われた「テクノファフォーラム」の会場風景です。

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6.設計仕様書

ISO 9001の改正で一番最初に行う作業が、設計仕様書(Design Specification)の作成です。この仕様書には、規格の目的、範囲、入力情報、背景などを書き込みます。ISO 9001の作成作業を行っているISO/TC176は大変まじめな委員会なので、このような設計仕様書を作成し、メンバー各国に回付して承認を伺い、賛成 多数を得てから、設計仕様書に則って規格を作る作業に取りかかります。

ISOは「規格を作成する時に設計仕様書を作ることは望ましい」とガイドで述べているだけ、設計仕様書を作ることは強制ではありません。各TCの自由裁量 です。ですから、設計仕様書を作らずに規格を作成しているTCもたくさんあります。ですが、TC176は設計仕様書を非常に大事にしています。というの も、規格の改正作業が進んでくると、設計仕様書に書いていないことを提案してくる国も出てくるからです。そんな場合、「それは設計仕様書に反している」と いうことで、却下することができます。

今回、TC176が作成した設計仕様書の目次は下記の通りです。6章からなる設計仕様書が作成され、メンバー各国から承認されました。この目次の中から、注目すべき点として第2〜5章を説明します。

  1. はじめに
  2. 戦略上の意図と改正の目的
  3. 改正プロセスに対する要求
  4. 設計へのインプット
  5. 背景と戦略上の指針
  6. 関連者

(1)戦略上の意図と改正の目的

なぜ改正するのか? それについて、第2章「戦略上の意図と改正の目的」では、「適合製品の提供能力に関する信頼を向上させるように規格を改正する」と説 明しています。これは、2008年版から問題視されてきたOutput Mattersへの対応です。本来、ISO 9001は、きちんと品質要求事項を満たす能力を持っていることを証明するために使われるものです。ですが、ISO 9001の認証を取っているにもかかわらず、顧客要求を満たすような製品品質になっていない現状がある。簡単に言うと、これがOutput Mattersです。この問題は別に日本だけではなく、全世界で問題になっている。いくらマネジメントシステム規格だからといって、結果がどうあってもい いというわけではない、ということです。結果が何とか保証できるように、規格を改正するのだ。そういった内容が第2章に書かれています。

(2)改正プロセスに対する要求

第3章では「原則的に、規格の目的、タイトル、適用範囲などは、ISO 9001:2008から変更しない」と明言しています。例えば、急に財務に関する要求事項が入ってくるなどということは、あり得ません。

(3)設計へのインプット

とはいえ、次期改正版は、見かけ上は大きく変わります。それは、Annex SLが関係しています。このことが第4章に書いてあります。Annex SL、正確には「ISO/IEC専門業務用指針 補足指針 附属書 SL(ISO/IEC Directives Annnex SL)とは何かというと、ISOやIECで何か規格作りをするためのガイドラインです。そこに附属書 SLというのがある。そのSLには、ISOマネジメントシステム規格の構造に関する記述があります。つまり、情報セキュリティであろうと、道路交通安全で あろうと、すべてのISOマネジメントシステム規格は、このSLに従って記述することになりました。ISO 9001もこのSLに従って作成することに決まっています。

(4)背景と戦略上の指針

現 行のISO 9001規格はプロセスアプローチの立場をとっていますが、それが要求事項のどこに反映されているのかについては、我々が規格を読んでいてもよく分かりま せん。「これがプロセスアプローチです」と明示的に書いてあるわけじゃありません。ですから第5章では、「多くの規格使用者がプロセスアプローチの理解が 十分でない」としており、今後の改正では、規格使用者がプロセスアプローチについてきちんと理解できるように、分かりやすく記述していきたいとしていま す。では、実際にどのような表現で記述するのかについては、まだこれから検討するところです。

7.改正に向けた日本の立場

(1)認証の社会的価値

ISO 9001の規格改正にあたって、日本としてどういう方針で臨むのか。この点について、ISO/TC176国内委員会で審議し、「ポジションペーパー」を作 成してISOに提出しました。基本的な考え方として、まず認証の社会的価値を明確にしました。別にISOが認証制度を作っているわけではないのですが、現 実的にはISO 9001は認証制度と共にあるようなものなので、認証の社会的価値は何なのかを考える必要があるとしました。そこで、国内委員会としては次の3つを掲げて います。

a) 顧客に品質に対する情報を提供し、望ましい製品を的確に選べるよう支援
b) 組織に効果的な品質管理の仕組みを確立する機会を提供
c) 顧客と組織の双方に共通的な取り決めを設定し、監査等の手間を省く

この3つが認証制度のメリットなわけですが、やっぱりa)が根幹でしょう。a)を、b)やc)で支えるということになります。

(2)顧客の期待に応えられない原因

では、a)ができない、つまり顧客の期待に応えられない原因は何なのか。その原因を大きく3つに整理しました。

(原因1)必要となる固有技術のレベルが標準的な組織に比べて劣っている。
製 品を作る時に、もちろんQMSも必要ですが、それよりももっと重要なのが、その製品を作るための固有技術です。固有技術もないのに、「開発のプロセスをき ちんと管理していますか」とか言っても話にならないわけで。まずは固有技術ありきです。ですが、現行のISO 9001は、固有技術に関して何か言っているかというと、残念ながらほとんど言っていない。であれば、次の改正では、固有技術のことに触れざるを得ないと いうことです。

(原因2)知識・技能の不足、意図的な不順守、意図しないエラーにより、定められている標準通り業務が行われていない。
もう1つは人の、作業者の問題です。せっかくQMSを構築して、標準を作っても、守らなければ意味がありません。

(原因3)品質目標、製品実現プロセスを含めたその達成手段、製品およびプロセスの監視、マネジメントレビューの間の連携が不足しており、品質の改善につながっていない。
これは、多少 Output Matters を意識しています。ISO 9001に基づくQMSを回していけば、結果として、やっぱり品質がどんどん良くなっていくようにしなければダメではないか、という話です。

(3)ISO 9001改正に向けた要請

このような3つの原因に対して、どのような規格にすれば解決がはかられるのか。それぞれの原因に対して、このような規格にしていこうという要請を打ち出しました。

(要請1)製品およびその提供にかかわる固有技術の獲得・向上に関する、より明確な要求事項の追加
こ れは、(原因1)の固有技術に関するものです。ISO 9001自体は、業種・業態を問わない汎用性のある規格ですから、例えば「エンジンの固有技術についてきちんと管理しなさい」といったことは、当然書けな いわけです。ただ、製品固有のことは書けませんが、「きちんと固有技術の獲得・向上の仕組みを構築し、実施しなさい」ということは書けるんです。少なくと も固有技術に関わる要求事項は追加すべきではないかということです。

(要請2)不適合や事故・不祥事の主な原因となっている知識・スキル不足、意図的な不順守、意図しないエラーを防ぐ仕組みに関するより明確な要求事項の追加
(原因2)の、標準通りに業務が行われていないことに対しては、このような要請を出しました。

(要請3)製品の品質を示すパフォーマンス尺度にかかわる計画、実施、チェック、改善についてのより明確な要求事項の追加
結 果をもっと問うことにしよう、というものです。これも同様に、ISO 9001は汎用性のある規格ですから、例えば「不良率は1%以下でなくてはならない」なんてことは書けないわけです。ですが、「パフォーマンス尺度をきち んと決め、それについて計画し、実施し、チェックし、改善しなければならない」と要求事項に入れることはできると思います。

以上の3つを日本の意見として、ISOに提出しました。
(明日に続く)

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