ISO 9001:2015

次期ISO 9001規格の最新動向 その4

今日は連載「その4」。附属書SLの解説です。ISO/TC176国内対応委員会副委員長・棟近雅彦氏による講演「次期ISO 9001規格について」から紹介しています。

 

8. 附属書SL(Annex SL)

(1)附属書SLとは?

今回の改訂の大きなポイントは、附属書SL(Annex SL)です。「ISOで規格を作る時は、このような指針に従って作ってください」ということを示した「ISO/IEC専門業務用指針」というのがありまし て、これは、その指針の中の附属書の1つです。「SL」というのは、何かの頭文字ではなく、Aから始まる順番を表した記号です。附属書のS番目の中に、 SA、SB…と続いて、SLがあるという具合です。

附属書SLのねらいは何か。ISOマネジメントシステム規格は、最初はISO 9001だけだったのですが、続いてISO 14001ができて、その後たくさんのマネジメントシステム規格が作成されてきました。こういったマネジメントシステム規格には、共通した内容のところが たくさんあります。ですが、内容はよく似ているのに、書き方が異なるところがあります。規格を利用する立場からすると、マネジメントシステム規格の共通的 な部分は、共通した表現で書いてもらったほうが使いやすいわけです。一方、規格を開発する立場からすれば、マネジメントシステム規格を新たに開発する場 合、一から構成を考えるのは無駄な面も多く、効率が悪いので、共通的な要求事項は共通の書き方が最初から決まっているほうが開発しやすい面があります。

そこで、ISOの上層部であるISO/TMB(Technical Management Board:技術管理評議会)というところが、2006年から2011年にかけて、マネジメントシステム規格の整合性について検討を行いました。その議論 の結果、附属書SLで、マネジメントシステム規格の基本構造を決め、さらに、共通用語とその定義、共通テキストも決めました。マネジメントシステム規格で すから、例えばどの規格でも「トップマネジメントは・・・」って出てくるわけです。では、トップマネジメントとは何か。その定義はたぶん、どのマネジメン トシステム規格でも同じだと思います。つまり、そういった共通用語を定義したわけです。

共通の構造を決めていますので、各箇条のタイトルについては、例えば現行のISO 9001では第4章「品質マネジメントシステム」、第5章「経営者の責任」、第6章「資源の運用管理」、第7章「製品実現」、第8章「測定、分析及び改 善」という構造になっていますが、これがSLでは上位構造(High Level Structure)として、どのマネジメントシステム規格にも共通の一般的な表現にしています。

(2)附属書SLが示したMSSの基本構造

さて、附属書SLの中のSL.8はタイトルが「MSSの開発プロセス及び構成に関する手引」となっています。「MSS」というのは、Management System Standardsの略で、マネジメントシステム規格の意味です。ここには、マネジメントシステム規格を作っていく時には、こういうことを守ってやってく ださいということが書いてあります。このSL.8の中のAppendix 3、つまり附属書の中の附属書になりますが、このタイトルが「上位構造、共通の中核となる共通テキスト、共通用語及び中核となる定義」です。ここには、以 下のように、MSSの目次が示されています。

Introduction(序文)
1.Scope(適用範囲)
2.Normative references(引用規格)
3.Terms and definitions(用語及び定義)
4.Context of the organization(組織の状況)
4.1 Understanding the organization and its contex(組織及びその状況の理解)
4.2 Understanding the needs and expectations of interested parties(利害関係者のニーズ及び期待の理解)
4.3 Determining the scope of the XXX management system(XXXマネジメントシステムの適用範囲の決定)
4.4 XXX management system(XXXマネジメントシステム)
5.Leadership(リーダーシップ)
5.1 Leadership and commitment(リーダーシップ及びコミットメント)
5.2 Policy(方針)
5.3 Organizational roles, responsibilities and authorities(組織の役割、責任及び権限)
6.Planning(計画)
6.1 Actions to address risks and opportunities(リスク及び機会への取り組み)
6.2 XXX objectives and planning to achieve them(XXX目的及びそれを達成するための計画策定)
7.Support(支援)
7.1 Resources(資源)
7.2 Competence(力量)
7.3 Awareness(認識)
7.4 Communication(コミュニケーション)
7.5 Documented information(文書化された情報)
7.5.1 General(一般)
7.5.2 Creating and updating(作成及び更新)
7.5.3 Control of documented Information(文書化された情報の管理)
8.Operation(運用)
8.1 Operational planning and control(運用の計画及び管理)
9.Performance Evaluation(パフォーマンス評価)
9.1 Monitoring, measurement, analysis and evaluation(監視、測定、分析及び評価)
9.2 Internal Audit(内部監査)
9.3 Management review(マネジメントレビュー)
10.Improvement(改善)
10.1 Nonconformity and corrective action(不適合及び是正処置)
10.2 Continual improvement (継続的改善)

 

* XXXに品質、環境などの分野名が入る。

ここに示されているのは何かというと、MSSの基本構造はこうしなさいということです。上から見ていくと、「適用範囲」「引用規格」「用語及び定義」と なっています。つまり、用語もすでに定義され、それはどのマネジメントシステム規格に使われます。第4章以降が要求事項になります。「4.組織の状況」 「5.リーダーシップ」「6.計画」「7.支援」・・・。「7.支援」というのは、資源管理、コミュニケーション、文書化された情報などが含まれます。続 いて「8.運用」ですが、これが現行のISO 9001の「7 製品実現」に相当する内容です。さらに「9.パフォーマンス評価」「10.改善」となっています。

(3)附属書SLの適用の仕方

それぞれのマネジメントシステム規格を開発する時には、できる限りこのような基本構造を使うことになっています。この点は、附属書SLの中で、次のように示されています。

例外的な事情によって、分野固有のマネジメントシステム規格に、上位構造、又は、共通の中核となるテキスト、並びに共通用語及び中核となる定義のいずれか が適用できない場合には、TC/PC/SC/は、その根拠をISO/TMB(技術管理評議会)の幹事(tmb@iso.org)を通じてISO/TMBに 通知し、ISO/TMBで確認する必要がある。

ただ、品質、環境など、分野固有の表現しなければなりませんので、そのへんをどうやって表現するのかを事例で示してみます。例えば、Appendix 3では「5.1 リーダーシップ及びコミットメント」は次のように書かれてあります。

5.1 リーダーシップ及びコミットメント

トップマネジメントは、次に示す事項によって、×××マネジメントシステムに関するリーダーシップ及びコミットメントを実証しなければならない。

・ ×××方針及び×××目的を確立し、それらが組織の戦略的な方向性と両立することを確実にする。
・・・

 

この「×××」の部分を、ISO 9001の場合は「品質」に置き換えて記述すればいいわけです。すなわち次のようになります。

5.1 リーダーシップ及びコミットメント

トップマネジメントは、次に示す事項によって、品質マネジメントシステムに関するリーダーシップ及びコミットメントを実証しなければならない。

・ 品質方針及び品質目的を確立し、それらが組織の戦略的な方向性と両立することを確実にする。
・・・

 

問 題は、果たしてこのAppendix 3で、品質、環境、情報セキリティ、道路交通安全等々、どのようなマネジメントシステム規格も書けるのかということです。これはまだ、誰も証明したことは ないので分かりません。これは実際にやってみて、検討していくしかないでしょう。

ISO 9001のように、すでに書かれているマネジメントシステム規格は、今後Appendix 3に則った形に書き換えていくわけですが、ただ、前述したような「×××」を「品質」に書き換えるだけでは対応できない部分も当然出てきます。例えば、 Appendix 3には、「8.運用」には「8.1 運用の計画及び管理」という1項目しかありません。この「8.運用」は、現行のISO 9001では「7 製品実現」に相当するわけですが、1項目に「7 製品実現」の内容をすべて書くことは到底できませんから、当然要求事項を追加することになると思います。

追加については、附属書SLでは次のように書いています。

分野固有のテキストは、上位構造、共通の中核となるテキスト並びに共通用語及び中核となる定義の整合に影響せず、それらの意図と矛盾せず、かつ、それらの意図を弱めない。

ー新たなビュレット項目の追加
ー要求事項を明確化するための、分野固有の説明テキスト(例えば、注記、例)の追加
ー共通テキストの中の細分箇条(等)への、分野固有の新たな段階の追加
ーこの附属書SLのAppendix 3の中の既存の要求事項を補強するテキストの追加

 

「ビュレット項目」というのは、箇条書きの項目のことです。例えば、前述した「8.運用」については、下記のように記述することになるかもしれません。

8. 運用
8.1 運用の計画及び管理
8.2 ○○○○○○○○○
8.3 ○○○○○○○○○

 

あるいは、追加の別のパターンですが、前述した「5.1 リーダーシップ及びコミットメント」を例にとると、下記のように、文章の中に分野固有の要求事項(○の部分)を盛り込むことも、ひょっとすると可能になるのかもしれません。

5.1 リーダーシップ及びコミットメント

トップマネジメントは、次に示す事項によって、○○○○○○○○○品質マネジメントシステムに関するリーダーシップ及びコミットメントを、○○○○○○○○○実証しなければならない。

 

ただ、どこまでこのような追記が許されるのか、その目安については、今のところ、まだ明確になっていません。
(明日に続く)

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