エクソシスト

270-exo.jpgホラー映画の古典「エクソシスト」(ウィリアム・フリードキン監督、1974年公開)。少女に取り憑いた悪魔に対して、2人の神父がエクソシスト(悪魔祓いの祈祷師)として闘いを挑む話です。

ある日、子供が突然暴れ出し、
親に罵声を浴びせながら暴力を振るう。
親にも世間にも、
なぜ子供が暴れるのか理由がわからない。
子供は部屋に引きこもり、親と世間を呪い続ける。

この映画で起きている事象が、現実の家庭でも起きていました。
上映当時、私は高校生で、5つ年上の兄が数年前から家に引きこもり、
両親を毎日殴るという日々が続いていました。
家庭内暴力というのは、なかなか表には出にくいのですが、
たぶん日本の何十万か何百万かの世帯で
(家庭内暴力の数はわかりませんが、引きこもりの数は
2005年度のNHK福祉ネットワークの調査では300万人以上)
同じような事象が起きていたと思います。
1977年には開成高校生殺人事件、
1979年には祖母殺し高校生自殺事件などが起きて、
マスコミもようやく家庭内暴力に目を向けるようになりましたが、
それ以前から、新聞の社会面の端っこのほうに、
家庭内暴力の犠牲者の方々の記事が毎日のように掲載されていました。

高校を卒業してからは家を出て、昼間は働き夜は大学に通いながら、
1人で生活をするようになりました。
その後、結婚し、子供が生まれると、
長男が中学生になった頃から家に引きこもるようになり、
次第に親に暴力を振るうようになりました。
会社から帰ってくると、
長男に殴られた妻が顔を腫らして出迎えるという日々が、
また始まりました。
長男は20歳を過ぎた頃からおとなしくなりましたが、
まだ家に引きこもっています。

ですから、今でも「エクソシスト」は私にとって、
時々見てはヒントを得る、大事な映画です。
例えば、こんな場面。
悪魔に取り憑かれた少女が意味不明な言葉をしゃべり始めた時、
神父はその言葉をテープレコーダーに録音します。
そして、そのテープを、悪魔対策本部のような組織に持ち込み、
専門家に聞いてもらいます。
すると、その専門家は「テープを逆回転してみろ」と指示。
逆回転で再生すると、「で・て・い・け〜」といった人間語が流れてきます。

実際、家庭で暴れている子供の言葉は、
そのままの意味に解釈しても仕方がありません。
「女なんだから化粧くらいしろよ」と子供に怒鳴られたからといって、
母親が化粧しても子供の機嫌は少しもよくなりません。
「俺は病気なのに、どうして病院に連れて行ってくれないんだ」
と子供に言われたからといって、
親が病院に診察の予約を入れても、子供は家から出ようとしません。
つまり、子供は本当は別のことを言っているのです。

前述した開成高校生殺人事件をテーマにした
「絞殺」(新藤兼人監督、1979年公開)という映画も見ましたが、
これは事件をほとんどそのまま映像化したような内容で、
私の感想は、「そんな風景なら毎日見てるよ」でした。
一方、「エクソシスト」は、
現実の問題を、宗教的モチーフで抽象化して見せています。
「絞殺」のように、現実そのままではありません。
そのままだと、考えようがないのです。
いったん現実を抽象化して提示してくれると、
そのあとの現実との紐付けを自分でやりさえすれば、
何かヒントを得ることができます。

問題の本質は、
目に見えている、表に現れている事象の後ろ側に隠れている
─ 品質でも、哲学でも、心理学でも、仏教でも、
そういうことが昔から言われ続けています。
私もそう思います。
自分の兄や息子が「言葉にならぬ言葉」を発してきたからです。
彼らはいつも、「いや、そういう意味じゃない」と言っています。

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コメント

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  • コメント (5)

    • ファイヤードマン
    • 2008年 10月 31日

    中尾さんの穏やかな佇まいとは裏腹に壮絶な道を歩んでこられたのですね。言葉については旧約聖書のバベルの塔や言霊まで話が尽きないですが最近、読字障害という病気?を知りました。
    http://www.nhk.or.jp/special/onair/081012.html
    計算能力も会話も支障が無いのに字を読むことだけが苦手。文字がズラズラ並んでいると何処で区切るのかわからない由。字を読むのに使う脳の場所が凡人と違い、代わり空間把握能力等が長けていて物体を一方向から見るだけで立体視出来るのだそうです。また息子の同級生(重度の自閉症)がしゃべれないのに寝言ではしゃべったとか言語って不思議。単純な私には逆転テープでなくても皮肉や反語などいつも相手の腹の中を理解出来ませんが、ISOでは最初に言葉の定義と適用範囲を明らかにするからまだついていけます。

    • 家元
    • 2008年 11月 01日

    そういえば、私たちには「忖度(そんたく)」という言葉がありましたね。
    私にとっては、普段はほとんど使う言葉ではありませんが、美しい言葉だと思っていたのですが、実は壮絶な言葉なのかもしれないと思い始めました。

    • 中尾優作
    • 2008年 11月 02日

    ファイヤードマンさん、家元さん
    子供による家庭内暴力には、紋切り型の台詞があります。
    「こんな俺にしたのは誰なんだ」
    「あの時○○してくれていたら、俺はこうならなかったんだ」
    「親なんだから、○○するのは当たり前だ」 
    「土下座しろ」等々
    でも、禅問答と同じで、常識的に答えたら失格です。
    例えば、「土下座しろ」と言われて、土下座している親がたくさんおられるのですが、そうすると子供から素手の驚策が飛んできます。では、「土下座しろ」と言われて、土下座せずにその修羅場をどうくぐり抜けるか。これはかなり難問です。家庭内暴力に悩む全国の親が、うーん、うーんと頭をかかえている現代の難問です。
    ところが、こういう修羅場をアドリブで切り抜ける人っているんですね。実話を元にした映画「シンドラーのリスト」と「レイ」の次のシーンなんかはそうです。(そのシーンまで実話かどうかはわかりませんが)
    【レイ】
    ソウルの神様と言われたレイ・チャールズは、幼い頃に病気で視力を失います。1948年、17歳の時、シアトルで働くために長距離バスに乗ろうとします。バスの運転手は、レイが黒人であるうえに、盲目なことを知り、「手間がかかるからダメだ」と乗車拒否します。レイはとっさに「両目ともD-デイ(ノルマンディー上陸作戦の決行日)で失ったんだ」と運転手に言います。運転手は急に真顔になって「あの作戦に参加したのか!」と言って彼に敬意を払い、バスに乗せます。
    【シンドラーのリスト】
    武装したドイツ兵がユダヤ人街に入り、建物からユダヤ人を追い出して、ゲットーに強制移住させる場面です。反抗したり、逃げようとしたユダヤ人は、たとえ子供もであってもその場で銃殺です。あるユダヤ人青年が、逃げている途中に、道の前後から来るドイツ兵に挟まれてしまいました。すると、彼は逃げるのをやめて、とっさに、道ばたに散乱しているユダヤ人たちの荷物類を整頓し始めました。そして、強制収容所の所長を先頭とするドイツ兵が間近まで来ると、直立して敬礼し、大声で「所長殿、兵士の皆様が通行しやすいように、道路の荷物を片付けておきました!」と述べました。所長を含めドイツ兵たちは大笑いします。「そうか、じゃあ、片付けておけ」と所長は言って、他の兵士とともに去っていきます。
    あまり正確な描写ではありませんが、だいたいこういう話です。私だったら、バスに乗れずじまいだし、ドイツ兵に銃殺されています。アドリブ力を磨かなくてならん、と常々思っております。

    • 師範
    • 2008年 11月 05日

    我が家の長男場合は、家庭内ではなく、外に向けてのものでした。
    文字どおり、肩で風を切って歩く・・・。坊主頭に細い眉、するどい眼光・・・。
    中尾さんがおっしゃるとおり、我が息子も口で何を言い、どう行動しようが、心の叫びは「僕をもっと見てよ、僕を愛してよ、僕を抱きしめてよ」だったと思っています。
    自分よりも上背が伸び、声変わりした長男を今さら膝の上で抱くわけにもいかないなんてのは、親側の都合でしかないんですよね。 
    息子が通っていた小学校の校長先生(素敵な先輩女性でした)に言われた言葉が今も、私が子供たちに向かうときの原点になっています。
    “母親は子供にとって最後の砦”
    本当にそうだと思います。
    “世界中が敵になってもお母さんは君の味方だよ”
    当時、長男と会話する時に、耳タコになるくらい言い続けました。
    最近、次男坊の反抗期が遅れてやってきたのか、就活で行き詰っている(とは、本人は言いませんが)ためか、叱るとすぐに紋切型台詞が飛び出します。
    で、ついついまともに受けちゃったりしていますので、私もアドリブ力を鍛えなくては・・・。

    • 中尾優作
    • 2008年 11月 05日

    師範さんへ
    師範さんのお父様の葬儀に参加したとき、ご長男が頑張って手伝っておられたのを覚えています。彼も昔はゴンタ(関西弁です、「はじめの一歩」に出てくる仙道タイプ)だったんですなあ。
    お話を読んでいると、やっぱり母親の力は偉大ですね。
    父親は及びません。

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