父の命日

ある休日のことです。
小学生だった私に父がいきなり
「おい、釣りに行こか?」
と声をかけてきました。
急な話だったので私はびっくりしましたが、
一度釣りというものをやってみたかったので、
「うん、行く!」
と即答しました。

父が釣りの話をしたのは、その時がはじめてです。
家には釣り竿などありませんでしたし、
父が釣りをやったという話も聞いたことがありませんでした。

いったいどこへ連れて行ってくれるのでしょうか。
釣り堀でしょうか。
川釣りでしょうか、それとも海釣りでしょうか。
棹や餌はどうするのでしょうか。
聞きたいことはいっぱいあったのですが、
父はちょっとしたことですぐに機嫌を損ねる人だったので、
何も聞きませんでした。

昼飯を食べたら、出かけようということになりました。
私は昼飯をかき込みました。
父が食べ終わるまでに、私が食べ終わらないと
置いてきぼりをくらうような気がしたからです。

昼飯後、お茶が出ました。
私はそれを急いで飲もうとして
ツルンと手から湯飲みを滑らしてしまい
熱いお茶が私の足にかかってしまいました。
あまりの熱さに私は泣き出しました。
母がすぐに水を入れた洗面器を持ってきて
私の足をつけてくれましたが
私は泣き続けました。

「今日はちょっと無理やな。また、今度にしよ」
泣いている私を見て、父はそう言いました。
私はドジな自分が情けなくてなりませんでした。
なんで、これから出かけようという間際に
私はお茶をこぼしてしまったのでしょう。

翌週の日曜日も、翌々週の日曜日も、
父からの釣りの誘いを期待していたのですが、
もう父の頭からは釣りのことなどまったく消えているようでした。

「お父さん、釣りに連れて行ってくれないの?」
父の機嫌がいい時を見計らって、そう聞いてみようと思っていたのですが、
なかなかそんなタイミングが訪れず、いつのまにか私もあきらめてしまいました。

あの日以来、父との釣行は実現しないまま、
今日が21年目の命日です。

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コメント

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  • コメント (2)

    • GAI
    • 2012年 9月 21日

    今からでも遅くないんじゃないですか。
    「親父、魚釣りに行くぞ。
     小学校のころに約束したろ」
    思い出に浸りながら、心で会話するのもいいんじゃないでしょうか(^-^)

    • 中尾優作
    • 2012年 9月 23日

    確かに。

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