品質MS

第2回事業競争力WG傍聴記(2) ひたちなか総合病院のQMS

hospital_nagai.jpg本日は、第2回事業競争力WGの「傍聴記(2)」。前回の認証課長の趣旨説明のあと、「マネジメントシステムを活用した事業競争力強化に関する事例紹介」として、2つの事例が紹介された。今回紹介するのは、その中の1番目の事例で、「日立製作所ひたちなか総合病院における品質管理における取り組み」と題し、日立製作所ひたちなか総合病院・院長の永井庸次氏(写真)が発表を行った。その概要は次のとおり。

 

2.「日立製作所ひたちなか総合病院における品質管理にかかる取り組み」(永井庸次・ひたちなか総合病院院長)

今回の話のテーマ
病院というのは非常に複雑な業務をこなしている。この複雑な業務工程をどのように可視化し、業務プロセスを統合していくか。また、固有の臨床指標というも のをどのように開発・運営していくか。さらに、ヒューマンエラーをどのように極小化し、リスクを低減していくか。このようなことが当病院の課題になってお り、最終的には「医療の質・安全の向上」をはかることであるが、そのためには職員満足と患者さん満足(顧客満足)の両方を向上していかなければならない。

医療の質
ひたちなか総合病院は2001年5月、国内の病院ではおそらく1番目か2番目くらいにISO 9001の認証を取得した。認証取得には非常に苦労したので、取れた時は職員みんなで万歳をした覚えがある。また、医療の第三者評価を行っている日本医療 機能評価機構によるVer4.0の認定を2004年4月に受けている。Pマークは2006年に取得。日本科学技術連盟が主催する医療の質奨励賞も受賞して いる。さらにJCI(Joint Commission International)という国際的な医療機能評価にも取り組んでいる。

2012年度品質目標
ひたちなか総合病院の2012年度品質目標は下記のとおり。

  • 302床の許可病床を有効に稼働する。
  • 継続可能な救急・連携システムを構築する。
  • 各職種の教育システムを統合・確立する。
  • ひたちなか社会連携教育研究センターと協働し、教育・臨床・研究を深化させる。
  • 医療情報を有効に活用できる仕組みを作る。
  • 役割分担の明確化と責任・権限のもとに各部署・各委員会・各自がPDCAを回す。
  • DPC・診療情報タスクを活用し、ムリ・ムラ・ムダを省く。
  • 管理指標に基づく予算管理を実行する。
  • 透明性と説明責任を実行し、患者満足度を向上する。
  • 持続成長可能な病院運営をする。

このような目標を各部署に落とし込み、各部署でも品質目標を決め、PDCAを回している。

病院の質・安全保証システムの特徴
当病院には品質保証部門がない。専門職集団の集合であり、固有技術の事実に基づいて評価される。様々な職種の人間が一緒に働くというような、他職種協働実 践業務の風土がない。現場は個別性・多様性がある一方で、可視化・標準化・共有化ができていない。私はある時、日立製作所の工場の幹部に「工場では設計と 品証のどっちが偉いのか?」と聞いたことがある。その時、その幹部は「どっちが偉いかは言うことはできないが、少なくとも品証がOKを出さない限り、工場 から製品を出すことはできない」と答えた。では、病院ではその品証は誰が担当しているのか。そのへんのところが明確ではない。

病院のPDCA
ひたちなか総合病院では品質方針を定め、品質目標・管理指標を決めて、それを実践するためにPDCAを回している。当病院では、「My PDCA」という言い方をしているが、職員一人ひとりが自分の品質目標を持ち、それをPDCAを回しながら実践している。我々がPDCAを回していく中 で、あまりうまくいっていないのが機能別管理・日常管理である。手順はできているだが、職員がなかなか手順を守ってくれない。

事実に基づく管理
技術には、医療本来のスキルである「固有技術」と、ISOマネジメントシステムのような「管理技術」とがあるが、職員は、固有技術は認めてくれるが、管理 技術はなかなか納得してくれない。例えば、病院には記録・帳票に関するデータが山ほどがあるが、それらを意味ある情報に変換する管理システムがうまく構 築・運用されていない。そのため、昨年の秋からデータセンタを作り、データの一括管理に着手し始めたところだ。

業務工程
業務の可視化(見える化)や標準化はなかなかうまくいかない。チームが必要な業務工程には、チームのメンバーが共通の認識を持つ必要がある。そのため、業 務工程図を作成した。業務工程図は、業務工程の理解度を高める教材になり、これを使うと、現状と理想像との比較もできる。

データの抽出・整理と臨床指標の作成
当病院には20以上の委員会があり、抽出したデータの整理を行っている。ただ、電子カルテではベタなデータしか抽出できず、まともな情報にするには加工し なければならない。そのため、56項目にわたって抽出したデータが委員会止まりになってしまっている。とはいえ、測定への挑戦として、臨床指標を策定し た。質を特定するのはむずかしいが、このような臨床指標を決めて、PDCAを回していかなければならない。2011年度からは、42項目の臨床指標を策定 している。この中で、唯一まともに改善できたのが、「手術1時間前の薬の投与」と「肺炎の患者が入院した時の血液培養」、この2つだけだった。この臨床指 標は、ひたちなか病院のHPで公表(PDF)しているが、「臨床指標」のページまで見に来てくれる人は、HPに訪れる人の中の500分の1くらいである。

「悪意のない不順守」への対応
QMS運用において、対策を立てても、それを守らないという問題がある。中でも、「悪意のない不順守」をどうするかが問題だ。「悪意のない不順守」には、 「知識・スキル不足によるもの」「意図しないもの(エラー)」「意図的なもの(まぁ、いいか)」があるが、その中で「まぁ、いいか」というのが医療界では 圧倒的に多い。当病院としては、「知識・スキル不足によるもの」については教育・訓練で、「意図しないもの(エラー)」についてはエラープルーフで、「意 図的なもの(まぁ、いいか)」については動機付けで、それぞれ対応している。

「まぁ、いいか」の中身
「意図的な不順守(まぁ、いいか)」には、具体的にどのようなものがあるかというと、「手洗いをしない」「ガウンを着ない」「手袋を変えない」「リストバ ンドを病室で直接チェックしない」「生体モニターをチェックしない」「略語を使う」「インフォームドコンセントを取らない」「手順通りに薬剤を保管・調剤 しない」などである。これらはISOで手順を作っても、なかなか守ってもらえない。我々は「手洗いをしているか」「ガウンを着ているか」といった順守項目 ごとに順守率のデータを取っているが、「意図的な不順守」への対応で一番重要なことは、「職場での指摘」であることが分かっている。

3点認証がきちんとできない理由
3点認証(医療行為において、対象者〈患者〉、実施者〈医師・看護師〉、対象物〈薬剤、輸液等〉の3点を実施前に確認すること)がきちんとできていれば、 事故は起きない。ところが、実際は起きている。なぜ起きているかというと、手入力や、救急時に迂回路を取ってボタン実施をしたりするからである。このあた りをどう直していくか。この点について、看護師にアンケートを取った。「なぜ手入力をしたのか?」と聞くと、ところ、「忙しくて」「緊急だったので」「面 倒で」といった回答で半分を占める。「どうすれば手入力はなくなると思うか?」と聞くと、「もっと簡単なシステムにすればいい」「教育を徹底する」といっ た回答で約半分だったが、「なくならない」とする回答が13%もあった。これはどうすればいいのか?

ナイアガラ分析
これは当病院の外来患者の1日単価と患者件数をグラフにしたもので「ナイアガラ分析」と呼んでいる。単価700円以下の患者や、700円以上1,380円 以下の患者というのは、基本的に患者さんを診てるだけ。それでも、全患者の3分の1を占めている。急性期病院が、診るだけの患者を、これだけかかえていて いいのだろうか。この点を医師にも考えていただこうと、データをメールで送ったのだが、実際にメールを開けて見てくれた医師は全体の30%。残り70%の うち、50%は「まだ見ていない」、20%は「却下」(見ない)である。こういう状況をどうするのか?
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説明責任と透明性
Accountability(説明責任)というのは、Transparency(透明性)が担保されていることが大前提である。透明性というのは、判 断・決定プロセスや臨床指標アウトカムに至るプロセスを、きちんと患者さん等に説明するという状態ができていること。ところが、患者に説明して、OKという同意を取ることが説明責任だと考えている医者が非常に多い。その前に、自分たちの判断・決定プロセスを公明正大に公表するということがなされていなけれ ばならない。ここのところは、ネガティブにではなく、ポジティブにどうするかを考えるべきだ。

医療はより危険になったのか?
手術死亡は減少しているが、医療関連感染・誤投薬・不具合事例は増加している。そのため、介入が多くなり、侵襲的になり、在院日数が短縮され、多忙になり、専門職がより多数関与するようになり、治療機会が増大している。医療行為はスピードアップしているので、より多くのチェックが必要であるにもかかわら ず、危険なポイントを理解していない外科医も多く、チェック項目数は航空パイロットより少ないのが現状である。

質を基盤とした医療
「質を基盤とした医療の質・安全経営」をまとめたのがこの図である。

 

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病院業務は、大きく「健診」「医療」「保険者業務」の3つがある。これらの業務を可視化し、標準化し、共有化していくために、電子カルテ等がある。電子カル テの使い勝手の問題は別として、二次使用をどうするかが重要だ。この二次使用にきちんと対応しておかないと、グローバル対応ができないし、DWH(データ ウェアハウス:病院内で発生する各種医療情報を蓄積し、その情報を診療、臨床研究、経営などに有効活用するための支援システム)もうまく運用できない。 DWHをもとに、臨床指標・インシデントや医療計画、災害対策や地域連携、PCAPSや在宅・介護連携などに情報をフィードバックしていくで、TPS(トヨタ生産方式)やLPS(リーン生産方式)などを活用しながら、安心・安全を担保し、顧客(患者、保険者等)満足、職員満足をはかり、医療者・患者・行 政・保険者等による利活用を推進していかなければならないと考えている。こういったことを、ISOマネジメントシステムを運用する中で取り組んでいること を、どうぞご理解いただきたい。▼

次回は「マネジメントシステムを活用した事業競争力強化に関する事例紹介」のもう1つの事例である、ブリヂストンの環境への取り組みを紹介する予定。

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