交通安全MS

ANAの運航リスクマネジメント

550-20121128ANA.jpgANAグループの運航リスクマネジメントについて、全日本空輸・安全推進センター安全推進部安全マネジメントチーム主席部員の大石多聞氏(写真)が、11月28日開催された国交省主催の「運輸事業の安全に関するシンポジウム2012」で講演を行った。その内容を下記に報告する。

ANAグループの運航リスクマネジメントについて

ANAの運航陣容
リスク管理を支える組織・人材について話をしたい。ANAグループは、グループ会社の営業スタッフを含めると約3万名が従事しているが、実際の運航に関わ るフロントラインは16,200名である。その構成は、客室乗務員(スチュワーデス)6,200名、グラウンドハンドリングスタッフ(GH:貨物の搭降 載、除雪などを行う)4,200名、運航乗務員(パイロット)2,500名、整備従事者3,300名である。

安全組織体制
安全を支える組織体制については、QMS、安全MSでPDCAを回し、日々アップデイトしている。お客様から期待されるもの、法的に要求される要件に対し て、経営層が方針を決め、それに基づいて16,200名のスタッフによって運航が実施されている。理想的な運航が行われれば、お客様の期待に応える形にな る。しかし、イレギュラーやアブノーマルな事象、つまり理想から外れてしまうことが多々発生する。そういった場合は、再発防止・未然防止と内部安全監査、 この両輪をうまく合わせて対応する。今回は、この体制中の再発防止・未然防止を取り上げたい。

再発・未然防止の流れ
再発防止・未然防止については、まず運航オペレーションの現場から、日々情報がピックアップされてくる。この情報を、主管する各グループ航空会社・各部門 と、私が所属する安全推進室が同じタイミングでピックアップし、安全マメジメントシステムのサイクルを同時進行させる。両方でそれぞれ運航リスクマネジメ ント会議を開催し、影響度と頻度を掛け合わせたリスク評価を行う。このあと、主管する各グループ航空会社・各部門と安全推進室が合同して運航リスクマネジ メント会議を実施する。ここでは、各部門の評価者が自分の主管部門のレベル評価を持ち寄り、他部門や他社のレベル評価が適しているかどうかを相互評価す る。その会議の結果を部長・室長クラスで構成される安全推進部長会に報告する。この会議には、財務や人事に関わる部室長クラスも列席する。これは運航対策 にはお金・時間・人の手当が関係するからである。そして、グループ会社の社長・役員クラスが出席する総合安全推進委員会で最終的な報告が行われる。

報告を途切れさせない
運航リスクは、影響度(4段階)と頻度(4段階)をそれぞれ横軸と縦軸に設ける4×4のマトリックスによって評価を行っている。影響度も頻度も低いものが レベルA、影響度も頻度も高いものがレベルDである。この評価は、分析・対策には欠かせない情報であるが、単純に報告されればよいというわけではなく、精 度の高さが要求される。このため当社では、現場担当者レベルで評価をして終わらないことを強調している。担当者はチーフに、チーフは課長に、課長は部長 に、部長は本部長に報告しなければならない。「これは上司に伝えなくてもいいだろう」と、情報の伝達を途切れさせることが一番懸念されるところである。

安全報告を罰しない
報告を途切れさせないためには、報告をしやすい環境を作ることが前提になってくる。そのためには、報告を受ける側の姿勢が重要になってくる。何かを報告す ると罰せられるのであれば、スタッフはなかなか口が開かなくなる。仲間達の再発防止・未然防止に活用するのが目的であるということを、グループ会社を含め た3万人、フロントラインの16,200人に理解してもらった上で、事実確認を行うということが大事である。そこで、各部門の特色に合わせた自発的な発信 を行ってもらっており、ECHO(パイロットによるレポート)30件、STEP(客室乗務員によるレポート)1,000件、ヒヤリハット(グラウンドハン ドリングスタッフによるレポート)6,000件といった成果が出ている。このような安全に関する報告については、決して不利益な扱いをしないことを社内で 宣言している。だからといって反省しないということではない。ヒューマンエラーに対しては反省はするが、罰は与えないということだ。

安全意識に関する取り組み
当社は安全意識に関する様々な取り組みを実施している。日本中のスタッフが実際に自分たちの安全に関する経験を持ち寄ってプレゼンを行い、優秀な取り組み に対しては部門・部署・個人対象に表彰を行うという、「TALKSAFE」という名称のイベントを2012年7月に実施した。これは40年前に雫石で起き た不幸な事故(1971年7月30日に発生した全日空機雫石衝突事故のこと)を振り返る意味も込めている。また、「安全キャラバン」を毎月実施している。 本日(11月28日)も当社の顧問が中国に飛び、現地のスタッフとともに、いろいろなクロストークを行っている。「緊急脱出研修」については、当社社長の 伊藤自らがつなぎ服を着て、この訓練に参加している。全グループ社員がこの研修を受けるための準備を現在進めている。「安全教育センター(ASEC)」と いう安全に関わる専門施設が東京都大田区の下丸子にあり、グループ全社員3万人が3年をかけて全員受講した。

運航リスクマネジメントの進化
より幅広く安全情報を活用し、より深い分析をやっていくということが、ここ数年取り組んできた中で、課題として出てきた。一例を挙げると、「なぜそんなこ とが起こったのか」と問うと、「作業環境が悪かったからだ」という答えが返ってくる。この「作業環境が悪かった」という報告を原因にしてしまうと、対策が 非常にむずかしくなる。「作業環境が暗かった」と言ってもらえると、明るくすればいい。「作業環境が狭かった」と言われると、広くする工夫ができる。「作 業環境が高かった」のであれば、低くすればいい。このように、具体的なところまで言ってもらえないと、有効な対策がとれない。また、「作業環境が暗かっ た」と言われたら、「狭くないか」「高くないか」というところまで聞き出さないと、未然防止にならない。もちろん、すべてのことに対策を取ることはできな いので、それは影響度×頻度の高いものを優先してやることになる。今までは「作業環境が悪かった」で止まっていたところを、「どう悪かったのか」まで踏み 込んでいくことが、今後の課題である。

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