交通安全MS

京急バスの車内人身事故対策

20121128_keikyuu.jpg11月28日に開催された国交省主催「運輸事業の安全に関するシンポジウム 2012」を取材した。国交省の武藤浩・自動車局長からは関越自動車道の高速ツアーバス事故への対応について、中條武志・中央大学教授からは運輸安全マネジメントとリスク管理について、全日本空輸と京浜急行バスからは取り組み事例がそれぞれ発表された。この中で一番印象に残ったのが、京浜急行バス運輸部安全対策サービス向上担当課長である生出淳さん(写真)によるプレゼン。講演テーマは「運輸安全の実効性の確保」。その全容を下記に報告する。

 

運輸安全の実効性の確保

京浜急行バスは、品川から羽田空港を含む大田区、横浜から三浦半島、鎌倉地区を主な事業エリアとしている。一般路線バスは648両、主に羽田空港、成田空 港を起点とする空港リムジンバス、アクアラインバスなどの中距離バスが219両、中国・四国・東北地方を結ぶ都市観光乗り合いバスが22両、合計889両 の乗り合いバスを運行している。当社は、基本的に旅客自動車運行事業だけを営んでいるバス専門事業者。従業員は正社員ベースで、グループを含めて約 1700名。本社職員が80名、残りがすべて営業所に所属している。1700名のうちの1400名、全体の8割がバス運転手である。

組織体制は、役員は常勤は3名(社長、安全統括管理者、総務部長)のみ。安全管理体制は、社長をトップに、安全統括管理者、運輸部とつながっている。現場 に関わる本社職員の課長以上がすべてが、安全管理体制に含まれている。同体制内にある運輸安全を担う部署である「安全対策サービス向上担当」では、事故防 止の教育、乗務員の教育、お客様からの苦情処理、事故処理を主業務としており、最近ではマネジメントシステムの事務局も担当している。この安全管理体制 は、京浜急行電鉄の時代から基本的には変わっていない。

近年、発生件数が多くなっており、国交省の事故防止の課題にもなっている車内人身事故の防止の取り組みを紹介する。京浜急行バスでは、車内人身事故は、平 成21年度に25件(このうち乗務員の車内安全不確認は12件)、22年度は28件(同17件)発生し、増加傾向となった。車内人身事故を減らすために、 まず車内不確認を原因とする車内人身事故はどういう場合に起こっているかを考えてみると、「発進時に起こりやすい」ことが分かる。であれば、発進時に乗務 員が安全確認をしっかりすれば(例えば、着席するまで発進を待つ)防げる。そこで、発進時の事故防止に特化した取り組みを行うことにした。

当社も、乗務員に対する教育・指導として、「安全運転をお願いします」と出発前の乗務員に声をかけるとか、添乗指導などがを行ってきた。「隠れGメン」な どと言われるが、一般人を装って乗務員の行動を観察し、営業所に戻ってから、「この対応はダメだ。こういうところは見直して欲しい」などと指導を行う。長 年このようなやり方を続けてきたが、結果として車内人身事故は減っていない。そこで知恵を絞って考え出したのが「安全推進添乗」という方法である。

これは、安全推進添乗員がバスに乗務員と一緒に乗って、乗客に見えるように安全確認を実施し、乗務員に対する安全意識の向上をはかるようにした。また、乗 客に対しても安全意識を持ってもらうために、安全推進添乗員が口頭でのアナウンスを行うようにした。アナウンスの口上は次のようなものである。

「本日は京急バスにご乗車いただき誠にありがとうございます。車内安全確認のため、添乗させていただきます。お客様におかれましては、お降りの際、ドアが開いてから席をお立ちいただくようお願いいたします。車内事故防止にご協力をお願いいたします」

こう述べた後、安全推進添乗員は「着席確認OKです。発車してください」と乗務員に伝える。

この結果、平成23年度の車内不確認による車内人身事故は12件と、2年前の数値に戻り、平成24年度10月末現在では4件となっており、一定の効果が見られたのではないかと考えている。

効果の具体的な内容は、乗客が着席をする前に発車を防止できること、乗務員に意識させ習慣づけさせること、乗客への車内人身事故防止の啓発が行えること、 の3つが挙げられる。逆に、課題としては、安全推進添乗員が車内確認をしてくれるので、乗務員による車内確認が他人任せになる可能性があること、車内確認 を行うことで乗降に時間がかかるので、遅延運行になりやすいこと、などが残っている。

当社としてのもう1つの具体的な安全対策として、ヒヤリ・ハットへの取り組みがある。当社のヒヤリ・ハットは、バス運行の安全確認事項が、運行エリアや路 線形態によって大きく異なるので、一方では営業所単位による小さなサイクルで動かすとともに、もう一方では会社全体のサイクルで動かすという2つのサイク ルで実施している。各営業所での傾向を調べるとともに、会社全体の傾向も調べている。会社全体の傾向というのは、事業内容や風土によるものである。例え ば、同じバス会社であっても、当社と他社とでは、事故の内容が大きく異なる場合がある。

ヒヤリ・ハットの年度別収集実績は、平成21年度444枚、22年度355枚、23年度344枚となっている。平成23年度に至るまで減少傾向にあった。 ヒヤリ・ハットは、収集しないと、未然に防止することもできないことになる。そこで、平成24年度は、収集数を上げるために工夫を行った。今まではヒヤ リ・ハットの用紙にはたくさんの記入項目があったので、乗務員にとっては手間がかかるものだった。そこでヒヤリ・ハットの様式を簡単にし、さらに用紙を使 わずにメモでも、口頭でもOKとした。特に口頭では、食事や休憩の時に話を聞くことになったので、逆に聞き取りを行うと、詳細な情報が入手できたりした。 また、同じ調査は何年も続けていると、どうしてもマンネリ化してだれてくる。そこで集め方の工夫として、毎月テーマを設定した。例えば6月であれば、「雨 天で傘をさしている歩行者や自転車」といったように、ターゲットを絞って調査を実施した。このような工夫の結果、平成24年度はヒヤリ・ハットは393枚 に増加した。収集したヒヤリ・ハット情報は、統計分析を行い、重要な事象は事例分析を実施している。

営業所管理者の育成については、外部研修では、法令研修、苦情対応、電話応対、内部研修では、具体的な課題(事故防止、運行管理、なぜなぜ分析)を与えて実施している。

最後に、京浜急行電鉄の時代から引き継いでいる「安全の誓い」を紹介する。

・安全は、心身をすこやかにし、生活を明るくする。
・安全は、職場をなごやかにし、輸送力を向上させる。
・安全は、幸福への道であり、繁栄のみなもとである。
・われわれは、けがをしないこと、人にけがをさせないことを誓う。

このような文面はどの会社も作っておられると思うが、「こういったことは当たり前だ」という感じで受け取られている場合が多いと思う。そこで、これを逆読みしてみてはどうか。例えば、第1行目を逆読みするとこのようになる。

・不安全は、心身を病んだ状態にし、生活を暗くする。

このように、正しい文と逆読みした文を対比させると、非常に分かりやすくなる。皆さんの会社の安全方針なども、このように逆読みしてみると、より理解が深まるのではないか。

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