交通安全MS

国交省の高速ツアーバス事故を踏まえた対応

kousyou_mutou.jpg国土交通省自動車局長の武藤浩氏(写真)が、11月28日開催された同省主催の「運輸事業の安全に関するシンポジウム2012」で、「関越自動車道における高速ツアーバス事故を踏まえた対応について」をテーマに30分間講演を行った。その内容を下記に報告する。ICレコーダーを起こして記事にまとめたのだが、誌面の都合で「アイソス」には載らない。大きな事故がもとで、行政主導で既存の2業態が合併して新業態「新高速乗合バス」が誕生したり、悪質業者の処分が強化されたり、監査にメリハリが付いたり、規制緩和がされたりと、すごいことになっている。

 

1. 関越自動車道における高速ツアーバス事故の背景

このグラフ(下図) は、高速乗合バスと高速ツアーバスの輸送人員の推移を表したものである。バス事業全般については、ここ20〜30年、経営は非常に厳しい状況にある。マイ カー使用による移動、就労・通学人口の減少などが影響し、輸送人員が減少している。そのような中、高速道路の伸長に合わせ、昭和50年頃から高速道路を 使った高速乗合バス事業が急速に伸びてきた。しかし、ここ10年くらいは、横ばい状態が続いている。

6479-kkou_doukou2.jpg一方、旅行会社がお客さんを募って貸切バスを手配し運行させる「高速ツアーバス」が、規制緩和の中で平成16年頃から出始め、年々増えている。また最近は、 インターネットの普及により、一般のお客さんが簡単に旅行会社による高速ツアーバスを利用できるようになってきている。そういうことから急速に伸長し、現在、6百万人程度の利用者がある。

高速ツアーバスは、お客さんの多い市場をターゲットにして発展している。例えば、東京─大阪間の輸送について言えば、実は高速乗合バスと高速ツアーバスは、輸送人数はほぼ同じである。最近は、高速ツアーバスのほうが、多いくらいである。東京─仙台間のにな ると、むしろ高速ツアーバスのほうが圧倒的に強い。大都市間を結ぶ長距離で夜間の路線バスについては、高速ツアーバスが相当のシェアを持ち始めている。

平成10年から22年までの、貸切バスの事業者数、車両数、輸送人員及び実働日車当たり営業収入の推移を表したのがこのグラフ(下図)である。規制緩和を受けて、平成10年から貸切バスの事業者数はどんどんふえており、現在約4,500社である。当然、事業者が増えれば、車両数も増え、現在4万7,000台である。しかしながら、輸送人員については、最近の景況も反映して、横ばいにとどまっている。

6478-kkou_doukou1.jpgその結果、何が起きるかというと、バスを1台走らせた時の営業収入が、平成10年は8万6千円くらいあったのが、その後、どんどん下がっていき、現在は6万3千円くらいになっている。このように、収入はなかなか上がらないのに、規制緩和で事業者数はどんどん増えている。こういった事業の現場においては、過酷 な労働環境が生じかねない。このような現状の中、関越自動車における高速ツアーバス事故は起きたのである。

2. 事故の概要及び問題点

事故は、2012年4月29日、ゴールデンウィークの初日に起きた。高速ツアーバスが、関越自動車道で乗客45名を乗せて走行中、道路左側壁に衝突し、乗客 7名が亡くなり、38名が重軽傷を負った。この高速ツアーバスの契約形態は、旅行会社がお客さんと契約を結ぶ、いわゆるバス旅行と同じ扱いである。旅行会 社が集めたお客さんを、旅行会社が貸切バス事業者との貸切運送契約に基づいて運行した。これが、高速ツアーバスのビジネスモデルである。

国交省が早速、この事業者の事業形態を調べた結果、様々な問題が分かった。顕在化した問題点の1つは法令違反。事故を起こした事業者に、運行に関する明確な 指示をしなければならないのに、それが十分になされていなかった。あるいは乗務前には、例えば、飲酒はしていないか、前の晩にしっかり睡眠を取っているか など、乗務前の点呼をすることになっているが、それについても必要な処置がなされていなかった。さらに、日雇い運転は禁止されており、最低でも2ヵ月以上 の雇用がなければならないにもかかわらず、日雇いで運転手を選任していた。このように、多数の法令違反が確認されたのである。

顕在化したもう1つの問題点は、高速ツアーバスの過労運転などの構造問題である。コスト削減等を理由にして、運転者の過労運転等の問題があった。加えて、旅行会社と貸切バス事業者とが取引を行うというビジネスモデルに問題があった。貸切バス事業者は、利用者と直接取引をしないことから、安全責任が不明確になりがちな ことから、安全確保がおろそかになっていた。

3.国交省が取った2つの対策

3.1 緊急対策

そこで、国交省としては、2つに分けて対策を講じた。1つは、早急な対応を義務付ける緊急対策であり、もう1つは、中長期的課題への対応策である。まず、事故が起きたのが4月の終わりで、7月に入れば夏休みに入り、お客さんが大量に動く時期を迎えるので、6月11日に緊急対策を発表した。
具体的には、まず、法令遵守の徹底と悪質事業者の排除である。全国に約300人にいる国交省の監査部隊が、高速ツアーバス運行事業者対象に緊急重点監査を実施し た。この監査部隊は普段は、貸切バスだけでなくて、乗合バス、ハイヤー、タクシー、トラックなどの事業者の監査を行っているが、この時は、貸切バスの中の 高速ツアーバスを運営している事業者に絞ってリストアップし、これらすべてに対して重点監査を行い、その監査情報を公開した。通常、監査結果は、相当悪いことが重なって、行政処分が必要になった時のみ公表するわけだが、今回は、行政処分に至らない違反の事実についても、すべて監査情報を公表した。
加えて、「この会社は、こんな悪質なことをやっていますよ」とかいった情報があれば、ぜひ教えてくださいということで、通報窓口を設置した。
緊急対策の2つめは、過労運転の防止対策である。これまでは、交替運転手を必要とする基準は、実車距離670kmだった。つまり、670km以内であれ ば、1人の運転手だけで運行することが可能だった。しかし、今回、過労運転に関して検討会議を通じて議論した結果、実車距離400km、乗務時間が10時 間を超えるものについては、交替運転手が必要であることを決定した。
また、旅行会社と貸切バス事業者間の取引契約の内容があまり明確になっていなかった。口頭の契約、すなわち口約束で運行を引き受けることも実際には行われていた。そこで、取引内容については文書等で明確にすることとし、そのような行為を通じて、安全確保に関する責任の明確化をはかった。
さらに、このような内容を含めた高速バス表示ガイドラインを策定するとともに、企画旅行広告における安全情報の表示を義務付けた。

3.2 中長期的課題への対策

前述したような緊急対策を講じた上で、今後このような事故を起こさないためにどのような処置を講じるべきかをリストアップした。

まずは、事業者サイドで安全確保体制をいかに強化をするかである。現在、運行管理者制度というのがある。バス事業者は運行管理者を置かなければならない。運 行管理者の仕事は、どの運転手が何時から何時まで、どこで運転をするかといった、労働法規もすべて満たした運行計画を作るのと同時に、運行の現場で運転手 に対して点呼を行い、まず相手の顔を見て、健康かどうか、飲酒をしていなかどうか、しっかり休憩をとっているかを確認することである。運行管理者が、しっ かりと確認をしていれば、おそらく大きな事故は防げる。このような制度があるのだが、どうも十分には機能していない。現在は、バス会社における運行管理の 一定の経験があれば、運行管理者としての資格として認めているが、今後は、さらにこれに労働法規などについての試験を課し、しっかりと管理ができるような 運行管理者になってもらうため、運行管理者制度の強化を検討している。

加えて、業界・事業者に対する安全確保に関する自主的な取り組みということで、例えば、運行管理者に対する講習会の実施や、事業者による安全確保に関する取り組みの事例紹介といった活動を強化していきたい。

行政側としては、監査体制の強化が必要と考えている。300人の監査体制の中で、効率的に監査をするにはどうすればいいか、ということを今考えている。

また、参入規制のあり方も検討している。例えば、貸切バス事業に参入するためには、最低バスは何両持っていなければならないとか、運行管理体制がきちんとできているかとか、さまざまな参入基準があるが、それについて、さらなる強化が必要と考えている。というのも、安全意識をあまり持たない事業者が、安易にこういった業界に入ってくるのを防ぎたいという意図がある。

運賃・料金制度のあり方も検討課題である。高速ツアーバスは、旅行会社と貸切バ ス事業者との交渉で、その値段が決まるわけだが、その交渉の過程で、旅行会社から例えば、ダンピングと言えるような安い運賃が強要されていないか、そう いったものを防ぐにはどうすればいいのか、といったことを検討する必要がある。

このように、いろんな中長期的課題があるが、こういった課題をそれぞれ検討会を立ち上げ、検討しているところである。この中で4つほど、具体的な検討例を説明したい。

4.具体的な取り組み例

4.1 新高速乗合バス

大きな取り組みとして挙げられるのが「新高速乗合バス」への移行である。これは、高速道路におけるバス事業として、高速乗合バスと高速ツアーバスという2つのビジネスモデルが混在しているが、これを一本化するということだ。

高速乗合バスは、乗合バス事業者と利用者とが直接契約を結ぶ。一方、今回事故を起こした高速ツアーバスは、旅行会社が利用者と契約を結び、その旅行会社が貸 切バス事業者と契約を結ぶというシステムだった。「新高速乗合バス」では、契約形態は高速乗合バスと同じにする。すなわち、利用者と高速乗合バス事業者の 取引関係一本にするということである。お客さんを集める旅行会社、バスを運行させていた貸切バス事業者、この両者が乗合バスの許可を取って、乗合バス事業 者になってくださいということである。

実は、関越自動車道における高速ツアーバス事故が起きる1ヵ月前に、業界関係者で審議した結果、こ の「新高速乗合バス」の方針は決定していた。その時には、このような一本化をはかるには、かなり準備期間が必要だろうと考え、2年間かけてこの新制度に移 行させることになっていたのだが、その1ヵ月後に大変悲惨な事故が起きてしまったので、準備期間を繰り上げて、1年で実施することになった。2013年の 夏までに、この一本化を進めようということで、取り組んでいる。

併せて重要なことは、旅行会社側が比較的自由な集客をしながらビジネスを 展開していたのに対して、高速乗合バス事業者はこれまで、比較的厳しい規制下においてビジネスをしていたという状況がある。これについては、既存の高速乗 合バス事業者についても、柔軟な経営を行っていただこうということで、2つばかり規制緩和ということで、制度を変えようと考えている。

1つは、これまで高速乗合バス事業者が、事業計画・運行計画を決めるためには、1ヵ月前に役所に届けなくてはならなかったが、これを1週間前に短縮した。加 えて、運賃の設定についても、その幅を認めようということで、幅運賃での届け出を可能とした。これにより、既存の高速乗合バス事業者も、高速ツアーバス事 業者に負けない運賃設定などが期待できると思う。

もう1つは、高速ツアーバスのビジネスモデルでは、その需要段階に応じて、貸切バス事業 者に運行を頼むことができるというのが特徴だったので、今回の「新高速乗合バス」のもとでは、既存の乗合バス事業者も、一定の範囲内まで、すなわち車輌の 半分程度まで、安全が確認できた事業者に対しては、運行の委託が可能になるとしている。

ということで、既存の高速乗合バス事業者において も、繁閑に応じて、供給量を増やす体制が可能になる。この一本化によって、まず高速ツアーバスというビジネスモデルについては、既存の乗合バスと同等の安 全管理意識を持っていただくと同時に、既存の高速乗合バス事業者については、柔軟な経営ができるように変えていこうということである。
下図は当日のプレゼンで使用された「新高速乗合バス」解説スライド)

6480-kkou_doukou3.jpg4.2 効率的・効果的な監査の実施

2つ目が監査の問題である。反省を含めて申し上げなければいけないのは、1つは今、300人という限られた人数での体制がある一方で、役所としてはどうして も平等に監査をすることを常に考えているので、大きい事業者も、小さい事業者も、順番に平等に監査に入って、違反事項があれば処分をするという対応をして きたが、このようなやり方では、今後大きな事故はなかなか防げなくなるだろう。もっとメリハリのついた監査をやらなければならない。悪質な業者に対して は、もっと重点的な監査が必要になってくるし、一方で、運輸安全マネジメントをしっかりやっておられる事業者に対しては、今後は監査を控えていくようにし たいと思う。限られた体制の中で、最大の効果を上げることを考えていきたい。

もう1つは処分の厳格化である。違反が重なると行政処分をす るわけだが、違法事項を積み上げてもなかなかその事業を停止に追い込むところまで点数が貯まらないというのがこれまでの実態だった。そこで悪質な事業者に 対しては、一層処分を強化しようと考えている。ここは事業者の皆さんとよく話をしながら、適宜対応をしていかなればならないと考えている。

4.3 貸切バスの配置基準決定

前述したように、緊急対策の中で、これまでは670kmまでは1人の運転手でOKという制度だったのを、今回、400kmを超える場合は原則運転手は2人に するという制度を作った。これは、高速ツアーバスに対する規制として決めたわけだが、このような話は、既存の貸切バス全般、あるいは乗合バスについても、 当てはまることなので、これらの事業者に対しても現在、順次、検討会の中で配置基準を決めつつある。つい先だっては、夜間・長距離運行する貸切バスの配置 基準を決定、12月1日の運行から適用される。ただ、ツアーバスと一般の貸切バスの運行形態は中身が違うので、実車距離400kmという点は同じだが、運 行形態の実態に合わた運行管理を要求している。以降、乗合バスについても、順次配置基準を作っていきたいと考えている。

4.4 衝突被害軽減ブレーキの義務付け

自動車の安全装置については、車両安全対策検討会というのを毎年開いているが、その中で、衝突被害軽減ブレーキの義務付けを検討している。これはどういうものかというと、バスの前面にレーダーが付いていて、それが前方の車両を感知すると、その時点で運転手がまだブレーキを踏んでいない場合は、まず警報音を出す。その時、運転手が居眠りや脇見をしている場合もあるので、警報音で知らせる。それでもなお運転手がブレーキを踏まない場合は、自動的に急ブレーキがか かるという装置である。実は、大型トラックについては、すでに同装着の装着が義務付けられている。ただ、それを一般の乗合バスにも装備すると、乗客が立っている場合、急ブレーキがかかると転倒などの危険性があるので、シートベルトのあるバスについてのみ、義務付けを決めたということである。

以上、具体的な話を4点述べた。だが、まだまだ十分な対策が出揃ったとは思っていない。今後引き続き、検討を重ねながら一定のシステムをしっかり作っていきたい。加えて、作ったシステムについても、それに安住することなく、常に検証を行って、安全確保の実績を見ながら、引き続き安全管理を強化していくことに取り組んでいきたい。

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