編集/出版事情

海外向けの草稿

ynarticle03某海外雑誌へこれから寄稿する直前の日本語の草稿を紹介します。

ある方から、事前にブログに掲載すれば?と言われたので(お約束は2月末だったのですが、守れませんでした。スミマセン。他人に『締め切り守ってくださいよ!』と言うのは簡単なのですが・・・)、長文ながら掲載させていただきます。
海外の読者を想定してますので、日本の読者対象だったら本来スキップしているような基本的な説明もかなりクダクダ書いています。

 

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日本におけるQMS/EMS
10年間の取り組みと今後の課題

株式会社システム規格社 代表取締役
月刊誌「アイソス」発行責任者
中尾 優作

日本の認証件数は2007年末時点でトップクラス

ISO9000/14000の認証件数のこの10年間の推移を見ると、世界の中で日本はかなり上位に位置している。2007年末時点において認証件数の多 い上位10カ国を対象にして、表1はISO 9000の認証件数を、表2はISO 14000の認証件数を表している(ISO Surveyのデータを元に筆者が作成)。これを見ると、日本はISO 9000では第3位、ISO 14000では第2位である。認証件数が多いということは、それだけ国際基準に則った品質マネジメントシステム(QMS)や環境マネジメントシステム (EMS)が国内の組織に普及しているということである。この普及は、日本の組織が、国内外の他の組織とコミュニケーションをとる際の大きな力になってい るし、品質あるいは環境を主軸にした競争力ある製品を世に送り出す際の基盤ともなっている。
ただ、認証件数というのは、いつまでも増え続けるものではない。表3は、日本におけるISO 9000とISO 14000の年間認証件数を表したものである。これを見ると、ISO 9000は1994年版から2000年版への移行期間終了後に、ISO 14000は1996年版から2004年版への移行期間終了後に、それぞれ認証件数の減少が始まっている。ISO 14000の場合、認証件数のここ数年の増減が小幅なので、2009年以降に再び上昇する可能性もあるが、ISO 9000の場合、認証件数の下降はかなり決定的で、2009年以降にプラスに転化する可能性はかなり低いと思われる。
年間における認証取得件数が認証廃止件数よりも少なくなり、国内の認証規模が縮小してくると、国内の認証制度の活力低下を生む可能性が高い。このような認 証件数の横ばい現象、あるいは下降現象は、認証件数の多い上位の国々の中では、すでに英国、フランス、ドイツ、米国で起こっているが、それと同じことが日 本でも起こりつつあるということだ。
では、どのようにすれば認証制度の活性化を維持・発展させることができるのか?  この問題については、日本におけるISO 9000/14000の登録組織及び審査機関の、この10年間の取り組みを紹介しながら、私なりの提案をさせていただきたいと思う。

マネジメントシステム規格が監査の在り方を大きく変えた

ISO 14000が1996年に発行された時、日本の大手組織は一斉に認証取得に走った。これはなぜかというと、ISO 9000が1987年に発行された時、日本は大幅に対応が遅れ、その国家規格ができたのは1991年であったことから、欧州向けの輸出製品を作っている組 織では大きな混乱が起こったため、同じ轍を踏まないように、ISO 14000が発行された時、日本の組織はクイックスタートを切ったのである。もちろん、それだけではない。PDCA を回しながら継続的改善を行うというマネジメントシステム規格は、経営に役立つ仕組みとして日本の組織から高く評価された。2000年には、ISO 9000も品質保証(QA)から、QAを含むQMS規格として改訂され、認証件数の多さも相まって、日本の組織のマネジメントシステムに大きな影響を与え た。この2000年版は、これまで日本の組織が持っていたISO観をガラリと変え、前向きな組織からは「ISO 9000は、ようやく経営に役立つ仕組みになった」と歓迎された。特に監査という側面では、組織が主体的に内部監査の充実化を推進し、組織による内部監査 と審査機関による外部監査との役割分担がはかられることになった。前向きな組織では、例えば次のような考え方で取り組んでいる。

1. 審査機関は、ISO規格との適合性という基本的部分を監査する。組織は、基本的部分+それを超える分野(改善の機会の発見や真因解析など)を監査する。
2. 審査機関は、組織のQMS/EMSを全般的に監査する。組織は、マネジメントシステム上の重点課題(マネジメントシステム上の弱点など)を中心に監査する。
3. 審査機関は、その機関と契約している審査員が監査する。組織の内部監査にはこのような制約がなく、社外の人材(第三者審査を経験している審査員資格を持つ 者、他組織の優秀な内部監査員、関係する業務や技術に詳しいエキスパートなど)を内部監査員として投入することができる。

また、ある程度の登録年数を経験し、審査制度の仕組みにも慣れてきた組織が、よりシビアな経営的視点で、審査機関にさまざまな要請を行うようになってきた。例えば、次のような動きがある。

1.  これまで工場ごと、あるいは事業所ごとに取っていた認証を、全社で一本化する。例えば、従来は工場の工場長がマネジメントシステム上のトップになってい たが、全社一本化により、組織のトップ(社長)がマネジメントシステム上のトップと一致するようになる。また、審査を一本化することによって、工場別に審 査を受けるよりも審査経費・工数を削減することができる。
2. 従来から契約していた審査機関が、あまり指摘事項や観察事項を出さなくなってきて、審査がマンネリ化してきた場合は、別の審査機関と契約し、新たな視点で審査をしてもらうようにする。
3. 経営資源を効率よく使うため、組織で構築したQMSとEMSを統合するとともに、審査についてもQMS審査とEMS審査を別々に受けるのではなく、両者の統合審査で受ける。これにより、審査経費・工数を削減することができる。
4. 組織の重点課題やマネジメントシステムの弱点などを重点的に審査でみてくれるように、登録組織から審査機関に要請する。

逐条審査から、現場のアウトプットからアプローチする審査へ

もちろん、登録組織だけでなく審査機関も、ISO 14000やISO 9000の2000年版が発行されてからは、経営に役立つ審査に積極的に取り組んでいる。「付加価値のある審査」や「有効な審査」を審査機関が標榜するよ うになり、特に ISOから”Output Matters”の議論が公表されるようになってからは、組織のマネジメントシステムが有効に機能しているかを、「結果」や「実施された程度」から審査で 検証することを強調するようになってきた。規格要求事項ごとに質問して、各条項との適合性を問うような逐条審査は、最近は未熟な審査技法として反省され始 めている。
とはいえ、この審査制度が日本で始まった頃から、「仕事の流れや問題点などを組織から聞きながら、自分の頭の中で規格要求事項との適合性を精査し、その組 織がまだできていない点や不十分な点などを指摘する」というような現場のアウトプットからアプローチする基本的な審査手法を、すでにきちんと身につけた審 査員は数は少ないながら存在したし、その審査は登録組織の間で高く評価されてきたのも事実である。

組織と審査機関の双方の問題点

このように、前向きにQMS/EMSの構築・運用に取り組み、審査機関にも積極的な働きかけを行う組織がある一方で、「内部監査やマネジメントレビューは 年1回、決められた日に実施しなければならない」「環境目的は中長期計画で設定し、環境目標は年度計画で設定しなければならない」「文書化された手順は、 文字で書かれた紙の書類でなければならない」などといった硬直した考えでシステムを運用している、あるいはそのように教育機関やコンサルタントから教えら れている組織がたくさんある。そういった組織は、ISO 9000やISO 14000を導入したものの、なんら自組織にとって有効な成果を得られないままになっている場合が多々あり、取引先から認証取得の要請が出ていないなら ば、今後は認証辞退に動く可能性が高い。また、組織が認証を辞退する、もう一つの大きな理由として、組織が審査にメリットを感じていないという点がある。 自分たちにとって有効な指摘事項や観察事項をほとんどもたらさない審査を受けている組織は、これ以上ISO認証に経営資源を投じようとは思わないに違いな い。

今後の課題は登録組織の協議会の結成

あまり成果が上がらないISOマネジメントシステム認証に対しては、政府レベルでは、経済産業省が制度の信頼性確保のためのガイドラインを2008年に発 行し、関係者に審査制度の見直しを促している。また、そのガイドラインに応えるため、日本の認定機関であるJABや審査機関の協議会であるJACBが、社 会に資する制度運営のための対応策を2009年中に打ち出してくると思われる。
ただ、審査機関の協議会はあるが、登録組織の協議会はまだない。なので、登録組織のニーズや考え方など、その詳細な実態が把握できる場が、まだ国内に存在 しないのである。日本には、大組織を中心とした業界別のQMS/EMSに関する委員会が若干ある程度である。実際、大組織であっても、契約している審査機 関に対して、なかなか言いたいことが言えないような状況がある。だから、審査機関と登録組織とが対等の立場で議論するために、日本の登録組織の利害を代表 する、業界横断的で、中小組織も参画できる形での登録組織の協議会を設立・運用することが必要だ。そうすることによって初めて、組織の現場で起きている審 査の結果や審査の効果についての本当の議論をスタートすることができる。日本以外でも、登録組織の意見を集約する協議会がある国は少ないのではないだろう か。月刊誌「ISOS」としても、メディアの立場から、登録組織の協議会の設立・運営に向けて支援したいと考えている。(了)

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コメント

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  • コメント (6)

    • イソハドーグ
    • 2009年 3月 11日

    いいだしっぺのイソハドーグです。某海外雑誌はどう扱うのでしょうか?
    前段(枕?)の認証件数についてコメントします。ISO認証が取引条件の組織および取引条件でなくても審査費用をまかなえる組織が一通り取得してしまえば、認証件数は頭打ちを迎える。品質に関しては、セクター規格が増えることにより9001が減る傾向があるかもしれない。マルチサイト化により14001の件数も減る傾向でしょう。あとは新たに起業された組織の新規認証とのバランスでしょう。ISO規格の使途は認証だけではないので、認証件数が増えない・減ることで、組織は別に困らないし、マネジメントシステムの継続的改善をしていけばいいだけのことです。困るのは、審査機関など、認証そのものがメシのたねのところですね。いいきっかけにして、審査のクォリティの向上につながるといいですね。
    登録組織の協議会かぁ、もしできたらどんな雰囲気になるのでしょうねぇ?

    • 中尾優作
    • 2009年 3月 11日

    イソハドーグさんへ
    <認証件数が増えない・減ることで、組織は別に困らないし、マネジメントシステムの継続的改善をしていけばいいだけのことです。困るのは、審査機関など、認証そのものがメシのたねのところですね。いいきっかけにして、審査のクォリティの向上につながるといいですね。
    おっしゃる通りです。
    メシのたねに困るので、いま制度関係者は、何とかしようとしています。
    JABやJACBはたぶん、審査内容に悪いところがあるから認証件数が伸びない、あるいは減っているのだ、悪いところを是正すればもっと伸びるはずだ、と考えていると思います。
    確かに、そういうところもあるでしょう。
    これをきっかけに、審査のクオリティが向上する可能性もあるでしょう。
    ですが、これ、方向性として間違っていると思います。
    多くの人間や組織が貴重な経営資源を投じて議論するほどのことではありません。
    衰退期に入ったテレビゲームの市場で、「ゲーム業界が元気がないのは良い作品が出ていないからだ。良い作品を投じれば、業界はきっと元気になる」と言っているのと似ている気がします。
    しょせん、「組織は別に困らない」問題なのです。
    審査のクオリティが向上すれば認証制度も活気が出てくると思い込む前に、審査のクオリティ向上という切実なニーズが組織側にかなり大きな規模で存在することを確かめてみたのでしょうか?
    「登録組織協議会」で「いやあ、そんなニーズは本音のところ、ほんのごく一部の組織だけですわ」という結論が出るかもしれない。
    もっとリアルな議論がしたい、そう思っての登録組織協議会構想なのです。

    • 某企業担当者
    • 2009年 3月 12日

    >JABやJACBはたぶん、審査内容に悪いところがあるから認証件数が伸びない、あるいは減っているのだ、悪いところを是正すればもっと伸びるはずだ、と考えていると思います。
    そんなこと彼らは思ってはいないでしょう。
    JABやJACBはたぶん、審査制度に悪いところがあるから認証件数が伸びない、あるいは減っているのだ、制度を見直せばもっと伸びるはずだ、と考えている
    と思います。

    • 審査道無風流家元
    • 2009年 3月 12日

    家元です。
    中尾さん、グローバルデビューおめでとうございます・・・?
    「認証制度の活性化を維持、発展するための取組と提案」が世界的にどのように受け止められるか、興味がありますね。フィードバックがつかめると面白いのでしょうが、難しいですかね。
    「利害関係者」それぞれの声が反映され、バランスした制度となるために・・・
    新聞には「社説」というのがありますが、アイソスももっともっとそうした部分を強調すべきなのかもしれませんね。

    • おばQ
    • 2009年 3月 12日

    >登録組織の協議会を設立・運用することが必要だ
    それはありえないでしょう。
    業界団体とか親睦団体でも、利害が一致しなければなりません。
    認証を受ける組織の相手は単一の認証機関なので、団体を組んで認証機関の団体(JACB)と対抗する意味がありません。
    要するに徒党を組む利益がないのです。
    そのようなめんどうなことをせず、毎年の審査を適当にあしらうというところに落ち着くのは、投資対効果を考えると必然と思います。
    まあ、そこが問題なのでしょう。
    要するに組織が認証機関を甘やかした結果が今があるということと考えます。

    • 中尾優作
    • 2009年 3月 13日

    家元さんへ
    <中尾さん、グローバルデビューおめでとうございます・・・?
    ありがとうございます。実は10年以上前になりますが、IQAの機関誌に投稿したことが一度ありまして、これで海外雑誌への寄稿は2度目になります。この時、反響があったのかどうかは分かりません。
    <世界的にどのように受け止められるか、興味がありますね。フィードバックがつかめると面白いのでしょうが、難しいですかね。
    雑誌よりもブログのほうが、反響がすぐにつかめますね。ですから英語のブログを作るのが一番いいのですが、そこまでの英語力&パワーがまだなくて・・・
    <新聞には「社説」というのがありますが、アイソスももっともっとそうした部分を強調すべきなのかもしれませんね。
    これについてはアイソスの編集長・恩田昌彦に考えてもらいましょう。
    昔のアイソスの巻頭言「アイソスの扉」は、「社説」に相当するものだったと思います。
    あれをやっていて、「まともにやっていても、反響ないな。おもしろおかしくやったほうがいいかな」と思って、そのあとにやったのが「回文かるた」でした。
    「回文かるた」以降は、それに類するものはないですね。

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