オンライン・アーティスト

「ウェブ時代をゆく」に影響されて(2)

米「ニューヨーク・タイムズ」紙(2007年5月13日)に掲載された記事全訳の2回目です。コンサートとCD録音が主活動の既存のアーティストと、ブログやSNSを駆使して一気にファン層を拡大し、かつファン一人ひとりと親密な間柄になっているオンライン・アーティストとの格差を見事に描写しています。
米「ニューヨーク・タイムズ」紙
2007年5月13日に掲載された記事
「セックス、ドラッグ、そしてブログを更新すること」

その2

jonasanジョナサン・コールトン(写真)のファンは、彼の販売促進部門でもある。彼らは世界中にコールトン教を布教する何千もの部隊だ。50人を超えるファンが、コールトンの曲を使ったミュージックビデオを作成し、それをユーチューブに載せている。最近の演奏については、彼の聴衆で、かつて私が話したことがある人たちの半数は、彼のファンが作ったビデオを通して、彼の曲にまともに出会った人たちだった。

コールトンは演奏するとき、コンサートツアーの伝統的な論理をひっくり返す。彼のようなブルックリンを活動拠点とする新人アーティストは、通常ならば、最初は3人、次は10人、そして運が良ければその次は50人と、少しずつ聴衆を増やすため、ボストン、ニューヨーク、シカゴといった北東部周辺の決められた枠内を行き来しながら演奏を行う。しかし、コールトンは、自分のオンライン上の聴衆の数を集計し、彼らがどこに住んでいるかを知っているので、ファンが100人以上いて、そこでコンサート収入1,000ドルを得ることができそうな町に戦略的な攻撃をしかけることができた。これは、コンサートツアーにおけるフラッシュモブ・アプローチ(flash mob:ウェブでの呼び掛けに応じた参加者が特定の場所に集まって何らかのアクションを行い、すぐに解散する新世代のパフォーマンス)といえるだろう。例えば彼は、最近彼が140のソールドアウトクラブに対して演奏したように、人里離れたペンシルベニア州のアードモアのような町を攻める。

コールトンのファンは彼を必要としているし、コールトンも彼のファンを必要としている。それが、彼が毎日活動する理由だ。すなわち、朝起きて、コーヒーを飲み、PowerBookを開く時のあのバーンという音を立て、うずくまりながら6時間ノンストップでページの更新を行い、いつものようにへとへとになるまで彼のバーチャルな群衆とコミュニケートする。

ある日コールトンに会うと、彼は、自称「たわいもないことをしゃべるファン」の女性が、彼の曲「誰かが狂っている」のために作成したミュージックビデオをチェックしているところだった。それは、ユーチューブで上演されているアニメ画像のシーンを巧妙につなぎ合わせたものだった。

コールトンは驚嘆してこう言った。「彼女はこの作業に何時間も費やしている。今、彼女の友達はこのビデオを見ている。ユーチューブで上演されているアニメ画像のファンもこのビデオを見ている。そして、人々は僕をどのように見るだろうか。それがこの画像の非常に重要な点だ。だから、僕はこのビデオを見なければならないし、彼女に対して責任もとらなければならない」

彼は彼女に急ぎの礼状を打ち、そして別のサポーターのところへリンクした。そのサポーターは、英国在住で、コールトンのファンが作成したミュージックビデオのファイル保管を専門的に行っているウェブサイト「ジョナサン・コールトン・プロジェクト」の運営責任者である。

彼はコーヒーをすすりながら言った。
「人々は常に、僕がミュージシャンで、ギーターを演奏しながら座っており、それが僕の仕事だと思っている。でも、これが(パソコンのキーボードを演技っぽくクリックしながら)僕の仕事なんだ」

1990年代の半ば、アーティストは自分たちのファンと、たまにしか会えなかった。友好的なミュージシャンなら、公演の後で数人の聴衆のメンバーに対して挨拶をすることはあっただろう。そして、インターネットがやってきた。今ではファンは、自分のお気に入りの歌手にEメールを送るだけでは満足しない。彼らは現実に個人的な返信を期待している。これは単なる「親密幻想」ではない。

演奏しているアーティストは、特に新しく出たばかりか、もしくは苦闘しているミュージシャンは、たとえやけくそであっても、インターネットの枠組みにおける新しい社会的ルールに習熟することに、最近ますます熱心になってきている。

彼らは数多くの若いファン層が、MTV(米国の音楽番組専門ケーブルテレビ放送)や音楽雑誌に登場するバンドの演奏を、もはや聴いていないことを知っている。それに替わって、ウィルス性の口コミを通して評判が生まれる。例えば、ある友人がウェブサイトのアドレスに進み、MP3(音声圧縮方式)に変換して、ファンのブログにEメールを送るか、ユーチューブの携帯コンサートビデオに掲載することで。

すなわちミュージシャンは、自分のブログに告白的なエッセイを書き、ファンのコメントを読んで、注意深く返事を書くという、エキサイティングな状況に飛び込むことになる。

彼らは、MySpace(ソーシャル・ネットワーキング・サービス〈SNS〉の1つで音楽マニアがコア会員、世界中に会員がいて、2008年5月時点でアカウント数は2億人を超える)にある自分の個人ページをチェックする。MySpaceは、無名のバンドやコメディアン、作家たちが、毎日何時間もかけて注力することによって人気の起伏が連続発生し、数日中に世界的な名声を得ることができる仮想大都市である。

バンドメンバーはしばしば、その日のMySpaceの「bulletin(お知らせ)」に、彼らがその瞬間にまさに何をしているかを聴衆に説明するメモを書く。そして彼らは、オンライン仲間で作っているアーティストに関する壮大なリストに載ることを望んでいるティーンエージャーからの「フレンドリクエスト」に対応するために、数時間以上を過ごす。実際、「フレンド」を獲得するための競争は非常に激しいので、あるアーティストたちは不正にも、人工的に自分たちの作品を応援する、数百人もの偽の「オンライン・フレンド」をソフトウェアロボットを使って作り出している。

ポップグループのBarenaked Ladiesは、「Wind It Up の曲に沿ってファンがエアーギターを演奏すること」を課題にしたビデオコンテストを開催した。最優秀作品は、その曲の公式ミュージックビデオとして一緒に発表されている。

インターネットのクルーを獲得できないアーティストは一掃される。英国のバンド、Arctic Monkeysは、MySpaceが何であるかを知らなかった。しかし、彼らのファンが2005年に彼らのためのページを作ってくれ
た。現在では、6万5,000人の「フレンド」を誇っている。MySpaceの彼らのページは、彼らのファーストシングル「I Bet You Look Good on the Dancefloor」を英国ヒットチャート第一位に押し上げた。

この傾向はミュージシャンに限らない。芸術的な試みのどの仮想ジャンルもまた、ゆっくりと影響を受けつつある。ケヴィン・スミス(「クラークス」1994など)やライアン・ジョンソン(「ブリック」1997など)のような監督は、彼らが撮った映画の特報を投稿し、彼らのファンの提案に真摯に耳を傾けている。

また、コメディアンのデイン・クックは、彼のウェブサイトを通じて非常に多くのファン層を培っているので、2005年発売の彼の最初のコメディーアルバム「復讐」は1978年以来のビルボードのトップ5に入った。

ミュージシャンは変革の先陣を切っている。彼らの3分間の曲は、インターネットによって完全に変貌した大衆文化の最初の作品だ。そして、彼らの2番目の収入源であるツアーは、遠隔地のファンと結び付けるための強い動機付けを与える。
(次回に続きます)

関連記事

  1. 「ウェブ時代をゆく」に影響されて(1)
  2. 「ウェブ時代をゆく」に影響されて(最終回)
  3. 「ウェブ時代をゆく」に影響されて(3)

ピックアップ記事

Vantage Point 法遵守

「ISO 14001は法律の完全遵守を求めていますか?」2009年 1月30日、東京で開催さ…

2012年 中尾優作の年賀状

Food Safety Day Japan 2013(7) 日本コカ・コーラは農産物にフォーカス

GFSI(Global Food Safety Initiative)主催による「フード・セーフティ…

メーリングリスト「いそいそフォーラム」が閉幕

ISOマネジメントシステム関係者が集うメーリングリスト「いそいそフォーラム」が7月5日をもって閉幕し…

机上の空論

10月3日に東京・無風流道場で是正処置ワークショップが開催され、そこで小生が「机上の空論」というタイ…

アーカイブ

ツール

規格

PAGE TOP