オンライン・アーティスト

「ウェブ時代をゆく」に影響されて(最終回)

米 「ニューヨーク・タイムズ」紙(2007年5月13日)に掲載された記事全訳の最終回(6回目)です。本編の締めくくりと して、冒頭に登場したコールトンよりも10歳以上も若いアーティストが登場します。彼らは、生粋の「アーティスト 2.0」で、その仕事ぶりはまるでビジネスマネージャーのようです。

 

米「ニューヨーク・タイムズ」紙
2007年5月13日に掲載された記事
「セッ クス、ドラッグ、そしてブログを更新すること」

その6

インターネットは、ミュージ シャンや作家になる人のタイプを変えるだろうか? このようなオンラインのトレンドは、ダーウィン的進化とみなすこともできるだろう。なぜなら、このトレ ンドは、「アーティスト 2.0」と呼ぶべき新種を必然的に生み出し、スポットライトを避ける繊細なボヘミアン的魂を最後のアーティストとして記録するだろうから。

「ラ イ麦畑でつかまえて」の中でJ.D. サリンジャーは、良書を読むとその著者に電話をかけて話をしたくなる理由について書いている。それは、今日のオンラインの衝動を見事に予 測している。しかし、隠遁生活に傾倒していたサリンジャーは、何でも明け透けにしゃべるこの新しい世界にいることに、1分ともたなかった。そういえば、カーボーイ・ジャンキーのマーゴ・ティミンズも同じだ。彼女は当 初、ステージの後側に向いて座るほど、観衆に怯える歌手だった。このような人たちが追い払われてしまうと、アートはどうなるだろうか?

と はいえ、これはごく自然に時代の転換点に入っただけのことであり、次世代のミュージシャンやアーティストたち─明らかに繊細な人も含めて─は、自分たちの ファンの存在をごく普通に受け止めている。

心理的展望は、議論の余地なく、20歳以下に向けられている。多くのティーンエージャーは今、 自分を「私人」とみなしており、携帯電話のカメラで撮った写真を使って日々の行動をあからさまに「フェースブック」 や「ライブジャーナル」に掲載している。この世代にとって、公私の境目はほとんど存在しないかのようにぼやけている。マイスペースのページを持っているティーンエージャーたちのほとんどが、友達に なってくれとせがむ何十人もの半匿名人たちの取り扱いを処理するのに堪能である。もし、その数が何百、あるいは何千に跳ね上がったとしても、彼らにとって はたいしたことではない。現実の世界では引きこもっている人も、自己表現や自己改革の場として使えるインターネットでは、花を咲かせていることもあるのだ から。

estこの記事を書くために調査をしている間、私は時々、マイスペースで最も「フレンド」数が多いバンドの上位ランキングリストをチェッ クした。上位陣の1つにザ・シーン・エステティック(写真)と 呼ばれるデュオがある。彼らは、マイスペースにおいて、フォーク、ポップ、ロックという複数のチャートで数カ月間トップの座にいた。私は、グループの共同 創立者である、シアトル在住の21歳、アンドリュー・デ・トレスに電話をして、彼の経歴を確かめた。

デ・トレスは、10代の頃はエモ(emo)・バンドとし て演奏活動をしていて、2つの男声の掛け合いが要求される曲を書いた2005年1月に、ザ・シーン・エステティック結成を思い立った。彼は友人のエリッ ク・ボーリーに電話を入れ、ボーリーの家の地下室でその日の午後のうちに、「Beauty in the Breakdown」という切ないバラードをレコーディングした。何人かは聞いてくれるだろうと思って、彼らはその曲をマイスペースにアップした。ところ がその曲は、マイスペースの10代のヘビーユーザーの心をとらえ、数日のうちに数千回も再生された。デュオの「フレンド」になりたいというリクエストが、 もっと曲を作ってほしいというメッセージを伴って、どっと押し寄せてきた。デ・トレスとボーリーはすぐさま3曲をオンラインに投入した。その間に大きく なったファン層は、彼らにフルアルバムの発売とコンサートツアーの実施を促した。

私との電話の中でデ・トレスはこう言った。
「ほ んと、偶然巨大な出来事に足を踏み入れたような感じだった。僕たちはほんのちょっとした企画のつもりだったんだ。たいしたことにはならないと思っていた。 だって、オンラインに1曲流しただけだよ」

今年(2007年)の夏に彼らのアルバムが発売される予定である。彼らの曲はマイスペースで1 日にだいたい2万2千回再生され、彼らの「フレンド」の数は18万人を超えている。昨年(2006年)12月で終了した大陸横断ツアーで、彼らは「かなり 高額なお金」(デ・トレス)を稼いだ。

このようなキャリアの急上昇は、以前は不可能なことだった。もしあなたが歌手で、一本だけ優れた曲 を持っていたとしても、それを独力によって世界規模で発表する方法はなかったし、あなたの才能を受け入れるマーケットがあるかどうかも知る由がなかった。 しかし、オンライン・ファンの住む世界は、異なった重力物理学が働いている。1つのシングル曲が元で、ザ・シーン・エステティックはミュージック・キャリ ア全体に一気に弾みをつけたのである。

新しいオンライン・ファンの世界の最終結論はたぶん、アーティストが自分の感情を正しく表現できる 道具を持ち、それで成功するための新鮮なルートができているということだろう。

コールトンザ・ホールド・ステディーよりも10歳かそれ以上若いデ・トレス は、生粋の「アーティスト 2.0」だ。デ・トレスは、「売れない時期も含めて、あなたの作品のすべてが好き」と彼に言うティーンエージャーからのメモを、1日2時間以上かけて、喜 々として読んでいる。彼は、聴衆にはオトリが必要なことを知っている。だから、彼はマイスペースに自分の作品のいくつかを発表しなくてはならない。しか し、最終的には自分のアルバムを人々に購入してほしいので、自分の持ち歌すべてを無料でマイスペースに提供したくはない。そこで彼は、「完璧にマイスペー ス向けの曲」というものを開発した。それは、すぐに受けそうな曲ではあるが、近日発売される彼のアルバムの中では必ずしも最強とは言えない曲である。デ・トレスに とって、ミュージシャンの仕事は、自伝作者とグループ・セラピストを兼ね合わせ、かつ政治家としての手腕も隠し持っているビジネス・マネージャーの仕事 と、かなり似通っている。

(今回で連載は終了です。読んでくれて、アリガト!)

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  1. 「ウェブ時代をゆく」に影響されて(1)
  2. 「ウェブ時代をゆく」に影響されて(2)
  3. 「ウェブ時代をゆく」に影響されて(3)

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