為定明雄氏の特別講演 速報

tamesada2.jpg10月23日に開催された「日科技連 ISO推進者会議 50回記念大会」の特別講演「消費の変化と顧客づくり -景気回復のあとにくる試練-」(講師:為定明雄氏(日本経済新聞社東京本社編集局・産業地域研究所所長)の内容が非常におもしろかったので、以下、その詳細を報告する。

 

【消費のカギを左右する2つの要因】

日本も米国も景 気はやや上向いている。アジアは、中国やインドをはじめ、まだまだ成長を続けている。その景気が影響して、日本の景気全体にも好影響を与えている。しか し、日本の個人消費はどうか。下降や落ち込みが続き、まだまだ厳しい状況だ。この現象は、リーマンショック以降の世界同時不況から日本がまだ脱していない からか。私の答えはYesであり、Noだ。

世界同時不況の影響は確かに受けた、だからYesだ。だが、実はそれだけではない、なのでNo でもある。例えば2年前の新聞記事を読むと、トヨタが2兆円の過去最高益を出したことが報じられる一方、日本の新車販売が25年ぶりに低調で、「クルマ社 会は曲がり角」との見出しが記事に付いている。日本の輸出先であるアジアの景気がいいので、日本の会社は利益が出ていたのだが、一方で日本の消費者のマイ ンドは明らかに変わってきていたのだ。あるいは百貨店・スーパーの販売額の下降は最近始まったことではない。ここ10年間ずっと下降し続けている。これは もう、その時々の景気の良し悪しの影響ではなく、消費者の百貨店・スーパー離れというのは、消費の構造的な変化であると見るべきだろう。

消費のカギを左右する要因は次の2つだ。
1. 景気の良し悪し
2. 消費の構造変化

消 費はもちろん景気の影響を受ける。しかし、それだけではない。景気が良い時も、景気が悪い時も、消費の構造変化は脈々と流れている。表に出て目に見えてい る海の波を「景気」にたとえると、「消費の構造変化」というのは、海の底を流れている海流にたとえることができるだろう。消費というのは、この2つの要因 が複雑に絡み合いながら起きる現象である。景気の悪い時に、その消費構造を見極めておかないと、景気が良くなっても、景気の波にうまく乗れないのだ。

【消費の構造変化を読め】

消費の構造変化を特徴づけるのは次の「3つのD」である。
Demographics(激変する人口動態)
Diversity(多様性)
Decoupling(個人差)

ま ず、Demographics(激変する人口動態)。2005年から日本人口は減り続けている。生産年齢人口(15~64歳)の減少は世界最速だ。一方で 高齢者比率が高くなっている。90年代半ば先進国では真ん中あたりだったが、この10年間で先進国のトップになった。今後はさらに高齢者比率が高まり、他 の先進国を大きく引き離すことが予想されている。また、高齢化は過疎が進む地方でより深刻、と思われがちだが、実はそうではない。例えば最近の65歳以上 の人口増加を見ると、島根県が15%増なのに対し、さいたま市は90%増、東京都市圏は78%増となっており、高齢化は過疎問題ではなく、都市問題である ことがわかるだろう。

次にDiversity(多様性)。今までとは違った生き方をする人が増えているということだ。例えば、従来は家族 世帯が圧倒的に多かったが、2007年を境に単身世帯が家族世帯よりも多くなり、以降単身世帯がどんどん増え続けている。単身世帯が増える原因の1つに、 非婚率の増加がある。理由の1つに、女性の社会進出があるだろう。2020年には男女とも非婚率は3割くらいになると予想されている。例えば、東京都では 40歳未満で6割が未婚というデータがある。もはやアラフォー(35歳から40歳までの女性層)は結婚適齢期なのだ。

では、このような変 化に対応して市場はどう変わってきたか。例えば、おひとりさまマーケットが重要になってきている。ひとり家電、女性ひとり旅などがそうだ。従来は、コー ヒーメーカーというと、何杯分かが作れる商品が主流だったが、最近は1杯用のコーヒーメーカーが結構売れているそうだ。炊飯器というと、昔は5合炊きや一 升炊きが普通だったが、現在は2合炊きが売れ筋で、5合炊きや一升炊きなどは店舗の隅っこの方にあるかないかくらい。住宅についても、面積は広いほうがい いが、できるだけ部屋数が少ない間取りが欲しいという需要が出てきている。これまでのように子ども部屋を必要とする世帯が減ってきたからだ。

3 つめはDecoupling(個人差)。Diversity(多様性)は横に広がるイメージだが、Decouplingは縦に広がるイメージと考えていた だきたい。日本では所得の少ない層がどんどん増えており、特に若年層の貧困が深刻だ。最も働き盛りである25歳から34歳までの非正規雇用率がこの10年 ほどで2.5倍になっている。この非正規雇用率の高さは「結婚できない」理由の一つだ。また、高齢者(70歳以上の単身生活者)の半分は年収150万円以 下である。このほど政府は初めて、日本の貧困率は15.7%と発表している。

さて、この3つのDが行き着くところは何か。大型消費市場が 細胞分裂し、中小規模市場の集合体のようなマーケットになっているということだ。細分化すると、消費者の関心は「モノ」から「気持ち」に移る。工業社会的 消費から感性社会的消費に変わる。つまり、「商品やサービスでどんな満足を得られたか」が消費を左右する。例えば「食にお金をかける」ことを考えてみる と、昔は「飢えを満たす」ためにお金を使ったが、今は「おいしい食事の満足感や、貴重な食材を買うという体験」を買うためにお金を使っていると言えるだろ う。

【ポスト団塊ジュニアを分析してみる】

ここで、「ポスト団塊ジュニア」と呼ばれている20歳から25歳くらいの年齢層にスポットを当て、次の3つがどのように変化したかを見ていきたい。
1. 気持ち
2. 行動
3. 関係

ま ず、ポスト団塊ジュニアの「気持ち」について。ある調査によると、低所得なのに「貧乏でも気の持ちようで満足している」と回答している人が78%もいる。 これは、たぶんものすごく大切に育てられたので、アグレッシブに何かを勝ち取って満足を得ようとか、あまり思わないからではないか。この世代の母親は、 30歳前後に生まれた一人っ子が多いので、非常に大切にされたのである。お稽古事や自分磨きは、この世代に人気があり、「検定」などは大好きのようだ。一 言でこの世代の「気持ち」を表すと次のようになる。

「一番大切なのは自分」

次にポスト団塊ジュニアの「行動」を見てみよ う。ある調査によると、寝ている時に幸せを感じ、旅行はあまり好きではない。外出するよりも、自宅にいる時のほうが好きで、自宅では、男性は趣味、女性は 団らんに時間を費やす。車離れが激しい。酒離れもすごくて、20歳代の4人に1人が酒をまったく飲まない。なぜ、家にいるのかというと、1つは、住宅事情 の改善がある。もう1つは、インターネットが整備され、買い物や情報収集で出かける必要性が減ったからだろう。これをうち(産業地域研究所)では「イエナ カ消費」と呼んでいる。ユニクロなどのカジュアル衣料が売れているのも、家で過ごす時間が増え、外出が少なくなっていることも理由の一つではないか。つま り、「イエナカ消費」を後押ししているのだ。このイエナカ族が車に求めるのは、走行性よりも居住性である。いかに車の中で快適に過ごせるかがポイントに なってきている。そこで、この世代の「行動」を一言で表現すると次のようになる。

「だったら家が一番」

今度はポスト団塊 ジュニアの「関係」を見てみよう。「モノ消費なら母娘」と言われている。50歳代の母と20歳代の娘が友達のように仲が良ければ、指輪やハンドバックなど 高額消費を生む。お店に行って母親と娘の両方が買うので、これは上乗せ消費になる。母親は、昭和30年代の高度成長時代に若い時代を過ごし、ブランドなど も積極的に買ってきた世代なので、それを娘がブランド継承している。一方で「父娘」が消費を生む傾向もある。娘が就職し、父の苦労が分かることで、父娘で 共通の認識が持てるようになり、共通の消費が生まれるわけだ。これらの関係は、娘が結婚しないで、働くようになっても親と同居していることとつながってい る。この「関係」を一言で言い表すと次のようになる。

「子どものためなら、家族なら」

【売上げを作るな、環境を創れ】

さて、このような変化に対応するには、「売上げは作るな、環境(消費をしやすくする環境)を創れ」ということだと思う。

小売業者の低価格競争が続いている。食品・日用品の価格が下がり、サービス(ホテルやテーマパークなど)も値下げが続いている。みんな、薄利多売で何とか売上げを作ろうとしている。しかし、売上げは結果であって、作るものではない。

例 えば、アウトレットの利用がなぜ増えているのか? あるアンケート調査結果によると、「楽しいから 55%」「節約になる 24%」「ブランドが選べるから 20%」となっている。1番目と3番目を合わせると全体の7割が、お金以外の理由でアウトレットを利用していることになる。つまり、単純に安いから買いに 行くのではなくて、感性的な満足感があるから、みんな利用しているわけだ。

ここで、生き残るためのビジネスモデルとして、次の3つのLを提案したい。
1. Last 1 mile(最後にお客さんと接する場)
2. Longtail(少ししか売れないけど長く売れ続ける)
3. Life-time respect(長い間使われる)

1.  Last 1 mile(最後にお客さんと接する場)については、時代に即した顧客との接点を工夫しなければならない。いくつか例をあげてみると、昔はコンビニというと 若者が利用するものと思われていたが、今は高齢者の利用が増えている、そこで高齢者対応として、車いすでも利用できるレジとか商品の値札を大きめにすると かいった対応をするコンビニが出てきた。また、コンビニは小売店であるが、ネットワークの拠点でもある。そこで、日本郵政とローソンが提携して、境目のな い業務を始めることになった。郵便局で日用品を売り、コンビニで郵便業務を行うなどがそうだ。あるいは、京成ストアは店舗内で、地元の商店街の人が自分た ちの商品を売れるようにした。そうすることで、スーパーの近くにいる人は、商店街の商品をスーパーで買うことができる。こうすることで、これまでは地元で 敵同士だったスーパーと商店街が共存できるようになった。

2. Longtail(少ししか売れないけど長く売れ続ける)については、多様化に対応できるモデルづくりが必要になってくる。例えば、小さな書店がどんどん 減っている。一方、大型店舗の売り場面積はどんどん増えている。店舗数は減っているが、売り場面積は増えている。これは、大型店舗は品揃えを充実させ、 Longtail対応もしたいからである。しかし、店舗の大型化など資金力がなければできない。そこで出てきたのが、ネット通販での本の受け取りをコンビ ニで行うという連携だ。コンビニは、売り場面積が小さいので、売れる商品しか置かないビジネスモデル。一方、ネット通販はまだ「商品の受け取り」というの がネックになっている。働く人が増えると自宅での受け取り時間の都合がつけにくい。平日に自宅で確実に受け取ることがむずかしくなってきている。一方、コ ンビニは24時間営業で、平日どんなに遅くても受け取ることができる。それに、コンビニにとっても、本を受け取るついでに、客が何かを買ってくれることが 期待できる。両者にメリットがあるわけだ。

3. Life-time respect(長い間使われる)については、消費者の年齢感覚が変わってきていることに気づくことが大切だ。2世代、3世代にわたって使ってもらえる商 品が重要になってくる。例えば、家族が家で一緒に過ごす時間が長くなっている。ということはゲーム市場も、年齢層が広がっており、その立役者はWiiだ。 例えば、製品の性能をみるとWiiよりもプレイステーションのほうが高い。しかし、ゲームの使い方の概念をWiiは変えたのである。コントローラーも従来 のゲーム機のような複雑なボタン操作ではない。リモコンのような形状のコントローラーを使って、ゲームなのにリアルでやっている動作をするというものだ。 お年寄りでも予備知識なしで遊べる。DSのタッチパネルもそうだ。おじいちゃんが部屋でWiiを使って遊んでいる時に、孫が入ってきて、おじいちゃんが 「一緒にやる?」と聞くCMがあるが、まさにこれは3世代を意識したCMだ。

以上、3つのLへの対応をまとめると次のようになる。
1. 接しやすい
2. 買いやすい
3. 長く楽しめる

これができる環境があるか、ということだ。この環境ができれば、結果として売上げができるのだから。