予防処置が消えた理由

「不適合、是正処置、予防処置」ーこの3つは継続的改善のための3点セットとして、長い間、ISOマネジメントシステム規格に組み込まれてきました。ですが、共通要求事項が記載された附属書SLでは、「10.改善」の章の中で「10.1 不適合及び是正処置」という条項タイトルになっており、「予防処置」が書いてありません。ということは、今後のISO 9001やISO 14001の改訂版でも「予防処置」という項目はなくなるわけです。

 

では、なぜ「予防処置」という項目がないのか? これについて、TC176国内委員会ではこのように回答しています。
「改善の章の1項目として、狭い範囲で予防処置をとらえてもらっては困る。ISOマネジメントシステム規格全体が予防処置のためのものなのだから」

まっとうな考え方だと思います。では、この考え方は、どこから出てきたのでしょうか? 附属書SLというのは、ISOの業務指針ですから、ISO内部の基準文書です。これは、国際規格の作成プロセスのように、CD、DIS、FDISといった 段階ごとに一般公表され、投票にかけられてから進むという手続きはとりません。1度だけ投票され、可決されてから、初めて公表される文書です。ですので、 我々一般人には、いつからISOが予防処置について、このような考え方を持つに至ったのか、その経緯が分かりません。

NIGEL-CROFT.jpgそこで先日、TC207/SC1国内委員会委員長である吉田敬史さんに、この点について聞いてみました。吉田さんによると、ある総会でTC176委員長であるナイジェル・クロフト氏(写真)が次のように語ったことがきっかけではないかとのことです。
「ISO 9001もISO 14001も『不適合、是正処置、予防処置』の 3つをセットにして記述してきた。これは、不適合が発生し、それに対する是正処置を施すと、そこで初めて、こんなことをするとこんなことが起きるというこ とが分かって、次に予防処置を施すという流れだ。しかし、本来の予防処置というのはそうではなくて、やはり最初の計画段階から取り組むべきだろう。例え ば、ISO 22000がそうだ。不適合、是正処置はあるが、予防処置の項目はない。これは、規格全体で食品安全のために予防処置を施しているからに他ならない。本当 は、すべてのマネジメントシステム規格(MSS)がそうあるべきなのではないか。MSSというのは、どんな分野であれ、不確実性の中でマネージしていくわ けだから、予防処置も、起こってはいけないことをいかに避けるかというリスク管理として、計画段階から手を打っていくべきものだ」

彼の発言に、みんなが「そうだ、そうだ」と賛同し、今に至っているそうです。附属書SLには、「予防処置」という項目がなくなって、代わって「リスク」と いう言葉が導入されました。「『リスク』という言葉が導入されたことと、『予防処置』という言葉が削除されたこととは、セットで考えてください」と吉田さ んは言っておられます。