「PDCAのどこから始めるのがいいか?」
先日の「是正処置ワークショップ」でほんの少し出た議論です。
何もないところからいきなりPで始められますか?
かといって、Pもないのに、Dから始めるなんてできますか?
PDCAはサイクルなので、
どうしても「鶏と卵のどちらが先」的問題をはらんでいます。
ISOマネジメントシステム規格には、
どこから始めればよいかは書いていません。
ですが、その前身のBS規格には書いてあります。
ISO 9001の前身のBS5570、ISO 14001の前身のBS7750、
ISO規格ではありませんがOHSAS 18001の前身のBS 8800には、
いずれも「初回に行うべきレビュー」があります。
たとえばBS 8800の場合を紹介しましょう。
この規格の発行は1996年なので、ちょっと古い話になりますが・・・
BS 8800には「4.0.2 Initial status review(初回状況レビュー)」
という項目があります。
組織は既存のOHS管理制度の状況確認をまず行いなさいと、
ここでは述べています。
組織は、BS 8800規格に取り組む前に、
すでになんらかのOHSの管理の仕組みを持っているはずですから、
その状況を確認することを求めているのです。
それを踏まえた上で、組織は方針を出すことになります。
それを表したのが「4.0.2」に掲載されている下図です。
この図の「方針」に関しては、
「4.1 OH&S Policy(OHS方針)」で記述されています。
このあとの展開は、現行のOHSAS 18001とほとんど同じですし、
ISO 9001やISO 14001とも共通するPDCAの流れです。
ISO 14001の言葉を使えば、P(方針、計画)、D(実施及び運用)、
C(点検)、A(マネジメントレビュー)となります。
このように、「初回に行うべきレビュー」を要求する意図については、
BS 8800の「4.0.2」に次のような記述があります。
Initial status reviews should answer the question “where are we now?”.
(初回状況レビューは、
「我々は今どこにいるのか?」という質問に対して、
答えるものであることが望ましい)
このような趣旨のレビューを求めているJIS規格があります。
「JIS Q 9005 質マネジメントシステム」です。
同規格の「6.5 質マネジメントシステムの計画」の、
冒頭にある「6.5.1 組織能力像の明確化」がそうで、
ここでは質マネジメントシステムの計画を立てる前に、
組織の持つ能力の状況を明確にしなさいと言っています。
これはまさに「初回に行うべきレビュー」であり、
同規格のPDCAの入口になっていると思います。
とはいえ、これは私の個人的思い込みであることを、
正直に述べておきましょう。
JIS Q 9005の前身の「TR Q 0005:2003」が発表されたあと、
同規格作成委員だった棟近雅彦さん(写真:早稲田大学教授)を取材した際、
私は興奮しながら、
「6.5.1って、まさにBS規格のイニシャル・レビューじゃないですか!
PDCAの入口ですよね!」って言ったところ、
棟近さんはあっさりと、
「我々の間で、そのような議論は出ませんでした」。
・・・つまり、規格開発者側はそうは思っていないわけで。
JIS規格の中に次の記述があります。
「次のシークェンスは循環型であり、どこから始めてもかまわない。PDCA (Plan, Do, Check, Act)のサイクルはまたCAPD (Check, Act, Plan, Do)でもある」
(JIS Q 9024:2003 マネジメントシステムのパフォーマンス改善-継続的改善の手順及び技法の指針 6.1.2項)
・・・なんだか「鶏と卵の関係だぁ!」と言い切られたようにも感じます。
だけれども、そこをあえて、「こうゆう場合にはPlanからがヨイ!」、「このケースはCheckからがヨイ!」「いや、こうしたバヤイは、そもそもの現状把握/初期レビューから始めるのがヨイ!」・・・とイロイロと考えてみるのも面白いかと思います。
「仮説/セオリー」を組み立てて、どこかで議論してみましょうかね。
大きなPの中に、CAとPがあるという考え方もありますね。
P(CAP)-D-C-Aみたいな。
鈴木信吾さんへ、イソハドーグさんへ
<PDCA (Plan, Do, Check, Act)のサイクルはまたCAPD (Check, Act, Plan, Do)でもある
なるほど。BS規格の初回状況レビューは、監査や測定がインプットになっていますから、CAPDですね、まさに。さすが、基本文献はきちんと押さえておられますね。ご紹介ありがとうございます。
<「仮説/セオリー」を組み立てて、どこかで議論してみましょうかね。
ええ、ぜひ。私が興味があるのは、日本人って、少々Pがいい加減でも、けっこういい仕事をやってしまうようなところがあると思いますが、それが平均的に高い日本人の労働能力によるものなのか、もしそうだとすると、たとえば10年後に日本の労働人口の10人に1人が外国籍というような状況になったときに、もうPがいい加減ではダメな社会になっているのかってとこなんです。自分自身に計画性がないこともあって、このへんはぜひ知りたいところです。
<大きなPの中に、CAとPがあるという考え方もありますね。 P(CAP)-D-C-Aみたいな。
実際にイソハドーグさんがEMSの構築・運用をしておられるときには、このへんのところはどう考えながらやっておられるのでしょうか。現場の経験をぜひお聞きしたいですね。
この手の話も大好きなので割り込みますが …
’80年代後半〜’90年代にかけて「組織開発(OD)」がブームになったことがあります。その際に強調されたことの一つが
「組織がどうなりたいか」を考えることは簡単だが、「組織がどうなろうとしているか(現在進行形の状態)」を把握することは難しい。
「組織の何を変えるべきか」を見つけることは容易だが、「何を変えてはならないか」を見出すのは難しい。(このあたり、is/isnotの考え方に似ているかな)
… と言うようなことでした。
実際の組織の事例では「PDCAサイクルの導入」が実践されるのではなく(そもそも存在しているものだから)、「PDCAサイクルの明確化」とか「確立」とかが課題となるのでしょうから、計画から着手することが多いのでしょうが
その前提として、組織の自己認識が不可欠(それは何のためのPDCAかということを明確にするためにも)ということなのでしょう。
で、ならばそれは、CAP-Doではないのか等の議論もあるのでしょうが … 私は「方針(ISO14001では4.2)はPDCAの前提としてあるよね」という理解です。方針とは組織の自己認識そのものだと思います。
PDCAとかCAPDoとか言葉はいろいろありますが、何かをやろうとしたときの考え方(ロジック)ということでしょうね。
これはSACの更新試験での話ですが、「あるロジックに基づいてAuditをやれば、抜けがなくできるでしょう」ってことで、プロセスをAuditするためとして、いくつか考え方が紹介されました(といっても、あるよと言っていただけ)。
考え方-1:タートル図による分析(IATF発)
考え方-2:基本的考え方としてのPDCAサイクル(日本発)
考え方-3:CAPDoロジック(ヨーロッパ発)
他にも”PDCAのVサイクル”といって、P→Dへはトップダウンアプローチで、D→C→Aとボトムからトップへのフィードバックシステムで、そしてAまで来たら次のPへ・・・なんてのもありましたが、まあ、どれもこれも考え方であって、それをどのようなところにどうあてはめると効果的かで判断ってところでしょうか。
余談かもしれませんが、先にPDCAサイクルって出されて気に入らない欧州勢が、むりやり(考え方は同じでも)「我々が考えたもので、あれとは違う」と言いたいがために”CAPDo”なんて出してきたんだというのもあるらしいとか(^^ゞ
とは言いながら、ある内部監査プロセスのケーススタディで、タートル分析する際に最初に考えるプロセスステップをケーススタディの通りに監査計画から始めたところ、全員がNGを喰らってしまいました。講師が言うには、「みなさん、内部監査計画を立てる際に、最初から計画書を作りますか?」でして、確かにこれまでの結果や他の情報など、事前の情報収集と分析をやってから立てますよね。このときは講師の説明が丁寧過ぎて、ケーススタディの通りにプロセスステップを考えなければならないと全員が受け取ってしまった結果でしたが、言われてみれば(そうでなくても)、多くの場合は「いきなりPはうまくいかないことが多い」ような気がしますね。
え”…iso??さんへ
組織の自己認識というのは大変むずかしそうです。「質のマネジメントシステム」のJIS化の前に、パイロットで適用した事業所が数社あったのですが、この規格で一番最初に取り組むべきことが「組織像の明確化」(組織の自己認識に相当するものだと思います)だったのですが、これを文書にすることに参加した企業はみんな苦しんだと報告されています。
GAIさんへ
<考え方-3:CAPDoロジック(ヨーロッパ発)
BS規格のイニシャル・レビューがCAPDoだと思っていたのですが、これはやはりヨーロッパ・ロジックだったのですね。
<多くの場合は「いきなりPはうまくいかないことが多い」ような気がしますね。
私もそう思います。けっこう的確なPを立てている人を組織を見ると、その前にどれくらい泥臭いことをやってきたのか知りたい衝動にかられます。