トヨタ自動車は、2007年に高岡工場でISO 14001の成熟審査を受け、
続いて下山工場でもトライする予定です。
成熟審査を受けるには、受審側に、
第三者審査を部分的に代替できるだけの内部監査力が必要です。
では、内部監査力のある組織はすべて、
成熟審査を受けるようになるかというと、全然そうではありません。
むしろほとんどの組織は、内部監査力があっても、
成熟審査は受けないでしょう。
では、成熟審査を受ける組織というのは、
どういう組織なのでしょうか。
「認証を取ることを第一目的としない。取り組みの体質強化を第一目的とする」
今から9年前、トヨタ自動車環境部担当部長(当時の役職)・岩井哲郎さんは、このように述べています。
このコトバ、簡単な表現に見えますが、ある時期を迎えたとき、非常に重くなります。
それは、認証が体質強化につながらなくなったときです。
目的に厳格であるなら、そのような認証は辞退しなければなりません。
ところが、ちょうどよいタイミングで、
成熟審査という新たな制度が登場しました。
これなら、体質強化につながりそうです。
かつてトヨタ自動車は、
ISO9001の認証をある工場で取得したことがあります。
そして、役に立たないと判断するや否や、
すぐにその認証を取りやめました。
そういう前歴がある会社ですから、成熟審査が用意されていなければ、
ISO14001の認証を本当にやめていたかもしれません。
認証取得の前に、体質強化が第一の目的としてあること、
これがトヨタ自動車が成熟審査を受けた理由の1つでしょう。
岩井さんはまた、次のように述べています。
「継続的改善については、
社内環境監査で自ら評価できる力を持つことが重要である」
内部監査を通じて自己評価がきちんとできるようになれば、
自律的に継続的改善を回せますから、
認証取得を第一義に考えなくても大丈夫なわけです。
そうなると、組織としては、
内部監査を通じて、
自己評価がきちんとできているかに焦点を絞った審査、
すなわち成熟審査を希望するようになります。
内部監査力を第三者の目で評価してほしい、
これがトヨタ自動車が成熟審査を受けた2つ目の理由でしょう。
岩井さんが9年前に執筆された、
アイソスへの寄稿文の中には、
なぜトヨタ自動車が今、成熟審査に取り組んでいるのか、その鍵となるコトバが、随所に出てきます。
以下、その全文(アイソス1999年1月号、48ページ)を紹介します。
ぜひ、読んでみてください。
(写真はいずれも1996年1月にトヨタ自動車高岡工場で実施されたISO/DIS14001審査)
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システムの考え方・運用次第でパフォーマンスは向上する
─環境マネジメントシステムとパフォーマンス─
株式会社トヨタ自動車 環境部 担当部長 岩井哲郎
1 EMSとは
EMS(環 境マネジメントシステム)は、MS(経営システム)の一つであり、あきらかに経営のツールである。ツールである以上万能でもなく、使う人達の考え方で大き く結果が変わってくる。EMSだけでは意見を述べるにも際限がなくなるので、ISO14001のEMSを念頭に考えてみる。
キーワードで EMSの特徴をとらえると、トップダウン、全員参加、透明性、継続的改善などが浮かんでくる。特に継続的改善については、社内環境監査で自ら評価できる力 を持つことが重要である。当社では導入にあたって、「認証を取ることを第一目的としない。取り組みの体質強化を第一目的とする」ことで活動をスタートさせ た。EMSそのものは、経験から息切れを起こさないためにも無理はしない、スリムで合理的なシステムをできるだけ考えることが望ましいと思う。
EMS 構築について、企業によっては外圧で動く、日本社会の特徴を有するところもあると思われる。環境負荷の継続的改善などという考えは全くなく、ビジネス上外 部認証を取得するというケースであろう。きっかけはそれでも良い。サーベイランスで微々たることでも継続的改善に必ずつながると思う。
ただし、登録の範囲設定を狭め、できるだけ簡単に認証を取得する姿勢、行動に対しては、問題提起をしていく必要がある。
2 EMS導入の効果
EMSを導入することによって色々な効果が期待できる、あるいは得られることは事実である。共通的にみても次のようなことがよくいわれる。
・ 法律遵守の確保
・ 環境リスクの低減
・ 業務達成の効率化(効率的な組織構成、透明性の高い作業プロセス)
・ コストの最適化(コスト低減)
・ 従業員満足度の向上(意識の向上)
・ 責任内容の明確化
これらは間違いなくパフォーマンス向上に対してプラス面の効果を持っている。EMSを導入(ISO14001の外部認証を取得)して、パフォーマンス向上につながらないということは絶対にないと言える。
3 パフォーマンスの向上
では、必ずパフォーマンスが向上するかといえば、そう簡単あるいは単純なものではない。パフォーマンス向上を考えるにあたりキーワードでとらえると、
・定量的な環境影響評価ができるか
(例えばNOx、SOxあるいは化学物質をいくら削減したら、
地域にどれくらい効果が上がるか)
・コストパフォーマンスがあるか
(コストアップになる対策では、
ビジネスチャンスにでもつながらない限り、
他社との公平性からみて長続きしない)
・その結果を社会がどう評価するか(関心が高いか)
等があると思う。
パフォーマンス向上の推進力として、効果があるのはやはり情報公開(透明性、公平性を高める)の進展であろう。自主的にあるいは社会制度としてであろうと、特に日本社会では、環境のパフォーマンスを公表する、せざるを得ないというのは、規制以外で最大の推進力であろう。
また、LCA的な評価の為の手法の確立、データの充実、計測の充実、トータル評価手法の充実等々、EMS導入の考え方、運用いかんによらず、必ずパフォーマンス向上につながっていくツール類の発展・充実も、大変重要な課題である。
当 社の社内環境監査も、EMSの構築・運用中心から、パフォーマンスの向上中心の内容へ軸足を移していこうとしている。いずれにしてもEMSは人間が運用す るものである。「仏作って魂入れず」では本末転倒も甚だしくなる。特に「経営トップの意識の持ち方、導入の考え方一つで、パフォーマンスの向上は大きく変 わる」ということが避けられないことも、大変重要なポイントと思う。
ISOは国際規格であり、EMSの構築、円滑な運用といった、外部認 証内容の国際的整合性が極めて大事である。日本独特のやり方にならないよう、パフォーマンス向上論も含め、グローバルなベンチマーキングが大変重要である。ISO14001取り組みの世界の先進国である日本が、パフォーマンス向上という本質に対して結果を出し、世界へ発信していく大きな責務を与えられて いる、と言えるのではないだろうか。▼
憧れの「成熟審査」
成熟審査に切り替えるためには、組織のMSの成熟は当然のことですが、「外注」していた審査を「内作」するというハードルの高さが有りますね。
日経ビジネスで連載されているトヨタの連載で排ガス規制への対応の際に、「すべて内部で解決」したという話がありましたが、成熟審査に切り替えられたというのは、まさに同じ話だと思います。
審査を外注していては本当の弱みを見つけることが出来ない。内部で問題を洗い出せという号令が行われたのではと感じます。
まさに、トヨタのDNAにより必然的に発生したことなのではと思います。
仔豚ンチでも同じような狙いなのか、監査を内作する部署が有りますが、20世紀に活躍したベテランの皆さんが、審査員資格もなく、CDPのような自己研鑽もなしで過去の経験に頼る監査に終始していては、「成熟審査」に切り替えられるには程遠いというのが現状です。
「成熟」とは、古ければ良いと言うのではなく、新鮮な目で組織を見ることが出来る力が必要だと思います。
システムの経験年数だけでは十分資格が有るにも関わらず、多くの組織がいまだに切り替えられずにいるというのは、内作出来るだけの力量を持ち合わせていないと言うことでしょう。
窓際の事務局にシステムのお守りをさせるのではなく、本気でシステムに取り組むトップの気持ちがなければとてもじゃないけれど達成出来ない世界だと思います。
いろんな意味で成熟審査には「憧れ」が有ります。
ISO14001に則ったEMSは本当に持続可能な発展を手助けするツールになっているか?
と疑問が湧いてきて、その疑問は大きくなり破裂しそうです。
世界を代表する企業、日本社会への影響力が大きいトヨタは、
地球温暖化防止、生物多様性の保全等、環境との調和ある成長を目指します。(基本理念3)と公表しております。
しかしながら、日本は温室効果ガスの排出は減少するどころか、増加しております。
日本がISO14001取り組みの世界の先進国であるならば、地球温暖化防止の成果が上がらないのはなぜか?
目標が悪い、審査が悪い、規格が悪い、××が悪い?
真の原因は何でしょうか?
大きい企業は管理できる環境側面のほか、
影響を及ぼすことができる環境側面も多数あり、
影響力も大きいと思います。
地球が壊れれば、その上で存在している企業も自動的に壊れて島します。
○○は大変強い企業ですが、地球が壊れれば強くても意味ありません。
大きなお世話ですが、在日英国大使館は日本人向けに地球温暖化防止に関してのパンフレットを作成して配布しております。
ISO14001は企業が強くなることを目的に作られた規格ではなく、企業が環境管理に取り組み、もって持続可能な発展を実現するための規格と理解しております。
ISO14001の取り組みの先進国である日本がたかだか地球温暖化防止一つも改善できないのは規格に欠陥があるのではないかと疑念が湧いています。
審査の方法の前に規格を見直す?必要があるのではないか。
又、真の原因は何か探求する必要を感じます。
EMASとはどこが違うのか?
例えば、LCAの導入が重要ならば、製造時の排出量に加えて
○○は○○製の自動車のCO2の総排出量
(販売台数×1台当たりCO2排出量)を
△△は△△製のエアコンのCO2の総排出量を
目標に掲げる必要はないのか?
いろいろと疑問がわいてきます。
ご指導ください。